逢崎 奈零

酷く優しい体温から抜け出そうだなんて、無謀だった。
主人公の宇佐見 萩は、心因性失声症により声を失くしてしまった女の子。大嫌いな英語の授業、発音の時間。教室を抜け出して向かう場所は、

「いらっしゃい。おいで」

優しい居場所を自分に与えてくれる彼の元――。


登場した人、もの、事柄が全て後の展開に関係しており、非常にすっきりと読み終えることが出来ました。無駄なものがない、という印象。

文章においては、主人公のその場その場の心情に合わせた情景の描写に惹かれました。うさぎが、鷹臣と別の女の子が一緒にいるところを見てしまったシーンに施されていた雨の描写が、読み終えた今でも強く印象に残っています。

また、ラストは私が中盤辺りで想像していたものと異なり、良い意味で裏切られました。ページが進むごとに胸の奥に形成されていった切なさの塊が溶けていくような優しいラストに、感嘆。

個人的には最後はタイトルで締めて小さな文字は無い方が、「終わり」という余韻に浸れるのでは?と思います。


読もうかどうか迷っている段階の方は、是非一読されることをおすすめします。

素敵な作品をありがとうございました。