小毬汐日
のこされた者の思い
かつて、妖怪と人間とが当たり前のように共存していたころ。人間という種を絶対視する政府は、彼等を滅ぼそうと企んでおり……。
そんな背景を背負いながら展開されるこの物語は、雪山で倒れた若者を救った雪女「おしん」の恋物語から、次第にその妹である「おきぬ」の話へと移ってゆきます。視点を一箇所に定めず移行させている点や、時間軸を時折交差させて描いている点も、読者を飽きさせない工夫となっているのかもしれません。
許されぬ恋と知りながらも幸せな生活を送る、おしんと已之吉の場面はとてもほほえましく、私たちは魚を口いっぱいに頬張るおきぬさんに笑い、またおしんさんを自らの手であやめなければならなかった場面に涙することも出来ます。
人を殺すということがいかにその人物に大きな傷を負わせるか、そして残された者の思いはどれほど悲痛なものであるか。この作品を読んでいると、そんなことを考えさせられます。
また、実在する書を典拠となさっているようなので、そちらの物語にも強い関心が沸きました。
運命に押し流された悲しい別れ、そしてかすかな希望を見出だす新たな出発を描いた作品です。