小泉秋歩
:「貝の世界」を描いた斬新な童話
そこは、深い海の底にある、貝の世界。
強大な力を持ち貪欲な「つめた貝」の王国が、次々と二枚貝の王国を滅ぼし、ついに「サクラ貝」と「リンゴ貝」の連合国をも攻め落とす。囚われの身となった美しきサクラ貝の王女は、つめた貝の王子に食べられる運命が決定したのだったが――
「貝」を登場人物にした童話仕立ての悲劇。
特筆すべきは、色々な貝を(安易に擬人化するのではなく)その生態に則して忠実に描いていることです。
つめた貝が他の貝を食べるシーンなど描写がとても具体的でイメージしやすいです。思わず「つめた貝ってどんな貝だっけ」と思って調べてみたのですが、確かにあの捕食の仕方は凶悪だなぁ(苦笑)
童話ということで、ほとんどの漢字に読み仮名がふってあるのも特徴的。子供の読者に対しては親切ですが、大人の読者には邪魔に感じられるかもしれませんね。
私個人としては「力を以って力を征する」という結末が少し不満ですが、これは好みの分かれるところでしょう。
ともあれ、「貝の世界を描く」という発想自体が非常にユニークで他に類を見ません。一読の価値ありです。