遠野ましろ
11ページ。名乗らずとも澄み渡る世界がある。
主人公と「君」の空気感、会話が絶妙。
テンポ良く、時折流れくる主人公の感情も的確です。
会話の一つ一つが実に自然。
小説の『会話』は『文章』になりがちです。色々読む限り。
例えば、普段使わないような単語や、スラスラとした文章。逆に、同じ単語の羅列にも見られます。
試しに台詞のどれかを声に出してみては、と思うことはあります。
この物語には、そんな不自然さが一片も無い。まさに誰かが喋っているよう。
また、『会話』を使って人物紹介が出来る。その好例。
この人はどこのだれ、どんな人という説明、名前すらなくとも伝わる。会話だけでも、主人公と「君」の人となりがイメージ出来ました。
描写は簡潔で、バランス良く思います。
outの章始めで、彼らが同じ高校に通う二年生ということも分かる。この示唆の仕方、良いですね。
さて、付き合って半年も経つと、最初の頃ほど熱心に出掛けなくなるんですよね。
共感を呼びつつも、彼の場合は事情が少し違うというオチ。ラストの屋上のやり取りでキュンとさせられる。
二人の関係が心地良い、爽やかな短編でした。