繭結理央
勝てるわけがない
一読した直後の感想は「なんだこれ」。
でもね、わたし、この物語は“傑作”だと思うんです。
といいますのも、何度読んでもモチ-フやプロットの出どころがわからないんです。なにをどう閃けばこの物語が描けるのか。
人間って欲深い生き物ですからね。人生における苦悩・苦渋・苦悶、あるいは悦楽や欲望など、生半ならない“性”を無意識にモチ-フやプロットへと込め、あわよくば伝えたい……創作に自我は付き物(わたしがまさにそう)。
それがどうよ、火星人とまりもって。この2つしか固有名詞は出てきませんからね。
で、
「たぶん平和だった」
「嬉しいらしい」
「そのうち大きくなるよ」
確実なことがなにひとつ描かれず、だけど成立しているふうに進行していくという。
あげく、
「まりも時代きたー!」
勝てるわけがないですよ。
もちろんケナしてはおりません。完全なる賞讃。恐るべき才能への畏敬です。
なんだか、出会った気がします。出会えてよかった。カタルシスのないこのユルさ。なのに繰り返し読んでしまう粘着性。
傑作に出会った。