小泉秋歩

秀逸!和風ホラーファンタジー短編連作集
嵐(らん)は生まれつき、幽霊や鬼や妖怪が見える特殊能力を持った青年。その能力を見込んで、嵐のもとには時々「拝み屋」まがいの仕事が持ち込まれる。
老人の頼みで、ある山奥の民家に「幻の酒」を探しに来た嵐。その民家は過去に殺人事件があったとも、鬼が出るとも噂されている。
しかし、その民家で嵐を出迎えたのは、口の利けない美しい少女だった。
訳も判らぬまま、少女の手厚いもてなしを受ける嵐だったが――(『名残のさかずき』)

穏やかで柔らかな雰囲気の和風ホラーファンタジー短編連作集。
嵐の周囲に集まる天狗や鬼、妖狐や幽霊などといった「ヒト非ざるモノ達」との様々な交流の様子が、淡々としたタッチで活き活きと描かれています。

文章は素晴らしく洗練されており、すっと映像が目の前に広がる感じ。その場の温度や風の流れまでもが自然に感じ取れる筆致は見事としか言いようがありません。
清浄なる深い森の奥にそっと足を踏み入れ、柔らかな苔の上に寝そべって優しい夢を見ているような――そんな気が、しました。