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濃紺の空には満月がぽっかりと浮かび、辺りには冷たい潮風が吹いている。
 山に近いボロボロの家から、一人の少女がドアを開けて出てきた。
 少女の服は、お腹のところが赤色に汚れている。
 少女は空を仰ぐと、ポストから手紙とラッピングされた袋を取り出した。
 黙って手紙に目を通しながら、袋に入っている飴をガリガリと食べる。
 「美味しかったな。」
 しばらくすると、少女はそう言って、空っぽになった袋を、手紙と一緒に海へと捨てた。
 そして、そのまま海へと入る。腰の辺りまで水につかったところで足を止め、ボロボロの家を振り返った。
 「やっぱり僕は君が心配だよ。服もこんなに汚しちゃってるし、口調が定まっていないほどに、精神が死にかけてるじゃないか。どんどん壊れていく君を見るのは僕も辛いんだよ。」
 ぼそりとそう言って、少女はお腹の汚れを洗い始めた。バシャバシャという音が、誰もいない海岸に響き渡る。
 「僕のために作ってくれた飴、とっても美味しかったな。また僕も彼女のためにパンを買ってあげよう。喜んでくれたみたいだし。」
 赤色の汚れが消えたところで、少女は浜辺に上がり、濡れた服を絞る。
 「大丈夫だよ。君のことは僕が守るから。なんて言ったって、僕は君のヒーローだから。」
 ある程度服が乾くと、少女は家へと歩き始めた。
 「ああ、そうだ。手紙の返事を書かなくちゃね。」
 にこりと笑うと、少女はドアを開け、家に入る。
 ドアが閉まるバタリという音だけが残った。
 
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