特別な力があるせいで呪われた子だと罵られ、両親から虐げられて生きてきた里沙。
そんな里沙のもとへやって来たのは、奥勤めをしている叔母のお豊だった。
『そなたの力が必要なのです。共に大奥へ参りましょう』
愛をもらえないのなら、自分が愛を持って誰かの助けとなりたい。
強い思いを胸に、里沙は城へ上がる決意をする。
文政二年。
奥女中となった里沙を待ち受けていたのは、とある難事を解決せよという指令だった。
丑の刻。騒ぎの元である御火の番の代わりに大奥を巡回することになった里沙。
待ち受けていたものは……。
——大奥に……男…!?
唖然とする里沙に、男は言った。
『名は佐之助。江戸を彷徨い続けている、亡霊だ』
泣いている幼子の亡霊と、とある悲しき奥女中。
その関係が結び付いた時、愛に溢れた想いは天へと昇って行く。
『文は時に、直接言葉にすることのできない秘めた思いまでも、自然と引き出させてくれるのです』