「もしかして今日は…あの人のところから出社した?」
「え、」

私の右側を歩く藤崎さんにそう言われて動揺してしまった。
周りに聞かれたら困るからだろう。”あの人”とぼかして言った。
藤崎さんは、少しだけ眉を下げて

「香りがね、」
「香り?」
「うん、前と同じ匂いがした」
「…あ、」

ホテルを出る前に抱きしめられたときに移ってしまったのだろう。
ただ、唯は普段香水はつけない。
…あの時、藤崎さんとランチに行った時も同じことをされたんだ。
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