『怪物と戦う者は自らも怪物とならないように気を付けねばならない』

『……』

『ニーチェの言葉だよ』

『何が言いたい』

小さな細い手が俺の頬に触れる

『その人達と同じ人間になってはダメって事』

『……』

『結人のそばには私や凱、英二、堀之内組長達がいることを忘れないで』

『……』

大きな黒い瞳が揺れている

……泣くな

お前に涙は似合わない

揺れる目元を親指の腹で無意識に撫でる

反射的に閉じた目から涙が零れ落ち、俺の手を伝う

『復讐を終えたらお前に全てを話す』

『……全て？』

『全てだ』

『……わかった。待ってる』

泣きながら笑う顔を見て、
心臓がチクりと痛んだ

この痛みは罪悪感なのか、それとも……

『出掛けるの？』

立ち上がる俺をいつものように玄関まで見送るコイツは……まだ何も知らない。

『行ってらっしゃい』

『あぁ』

寒空の中、外からリビングの明かりを見つめる

俺の口から真実を聞かされたお前は……

『“俺に”復讐すればいい』

それで―――、全てが終わる

リビングの明かりが消えたのを確認した後、

黒狼は今日も闇の中を彷徨う