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あの日私の心に芽生えた、彼を傷つけたいという感情は、いまだ燻っている。愛されたいし、愛してほしい。そう思っていたのと同じくらいの濃度で、たしかに胸の奥に秘められている。なんて凶暴で不可解な、気持ち悪い感情だろう。気持ち悪い、と頭の中で呟いた。

 恋は、気持ち悪い。

 どうしたって自分でも理解できない、言いようのない思いを持て余したまま、ベッドに潜り込んだ。

 目を閉じると、いつか見た春の終わりの雨が、流星のようにいくつもの白い筋になって、まぶたの内側を流れていく。
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