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「待って!!…あれ?」布団…?「あ、起きたんだ。おはよう」どこ?ここ…「って、おーい、おはよう」「…アンタ、誰?ここどこ?」「あー…とりあえず落ち着こうか。なんか飲む?」「は…?…はい」正直、何を言ってるのかわからないくらいには頭が混乱していたのだが、条件反射というやつか…頷いてしまった。深呼吸をすると少し落ち着いた。だいたいの疑問も解決した気がする。要するに、私は彼女に助けられたのだ。正に、文字通り。あの時近くにいたのか。全然気づかなかった…。…てか「紅茶でいい?」「…綺麗な部屋ね」「え?ああ、でしょ?整理整頓は好きだし、何より一人暮らしだからね。ゴミも少ない」「両親は?実家?」「うん…で、いいかな?」「あ、うん、お願い」「ん!」向けられた笑顔はなんか"無邪気"って感じ。彼女の淹れた紅茶はインスタントだったが、それなりに美味しかった。「落ち着いた?」「うん、だいぶ。ありがとう」「あそこで何しようとしてたのか、聞いてもいいかな」「自殺。近所だし、名所だし」近くにいたからか、彼女の表情は変わらない「やっぱり。かなり思い詰めてたんだね。隣にいる私にも気づいてない様子だったし…」「そんな近かったの!?…いやまぁそうか、助けれたくらいだし」気づけよ私…。「君さ」「ん?」「ご両親は?」「いないよ、そんなの…」「保護者は?」「いない」「家は?」「…もうない」「いつかr…」「ちょっと待って、あとどれくらい続くのそれ」「あ、ごめん…嫌だった?」「嫌っていうか、めんどくさい。助けて貰っといて悪いけど、紅茶も飲んだし、用が無いなら帰るよ」「あーちょちょ、ちょっと待って!家はないんでしょ!?」そう言いながら彼女は起き上がった私を引き止めようとする。私はそんな彼女をぶっきらぼうに振り払う。…質問攻めは嫌いなんだ。「ないけど別に困んないから」「君さえ良ければなんだけど」「いや言われなくてもわかるよ。"うちにおいで"的なことでしょ?」「なら話は早いよ。どう?」「見ず知らずの人間をルームシェアに誘う?普通」「まぁそうなんだけど…放っとけないっていうか…」「はぁ…お人好しなんだね」そして彼女が顎に手を当て考え始めたのを確認してから「じゃあ」と部屋をあとにしようとした。思えばここが分岐点だったんだろう。放って、さっさとこの部屋を出ていたら、今の私はきっとここにはいなかった。「んじゃあ用がある!できた!」「はぁ」「私は君の命の恩人だよね?いわば。自殺だったとはいえ、君の命を救ったわけだ」「頼んだ覚えなんかないのによくもまぁ…」「恩返しとして少しの間だけでいい。私の雑用係として働いてくれない?」私は少し考えてみた。別に、どうしても今すぐに死にたいわけではなかった。生きれるならなるべく少しは生きたいと思うくらいに心は人間だ。ただ、生きれないなら、生きることができないなら、その時は躊躇いなく飛び降りることができるだけだ。死ぬ理由がないから生き、生きれない理由があるから死ぬ。それだけのことだ。生きれるなら生きたい。でも今の私は最低限の衣食住を確保するのも難しい。ホームレスになってまだ一か月程度だけど、それなりに生には喰らいついてきたつもりだ。ファミレスの残飯がご馳走の食。普段は海水と雑草くらいしか食べれないのに、それのせいで死にかけたことだってある。茣蓙とダンボールの住。おっさんに襲われかけて護身用の杭を刺してなんとか撃退したこともあった。ゴミ袋を漁って手に入れた衣。唯一まともなのはこれだけかな。先週新調出来たし。今まではギリギリ生きてはこれたけど、正直もう限界。何とかなるかも、なんて思ってきたけどどうにかなったことなんて今まで一度もなかったしね。…どうせまだ納税とかもしたことがないガキの私一人が死んだところで、誰も何とも思わないでしょ。ただの身元不明の土左衛門か、魚の餌が関の山。それが私の生だ。でもなんだろう…これ……そんな生から、鼓動が聞こえてくる。大きな、何かとてつもなく大きな”生きれる理由”が、見つかろうとしている。そんな気がしている。目の前の、困り眉な笑顔の彼女に、私は少し照れながら言った。「恩着せがましいわ……でもまぁ、うん。借り作ったままってのもよく考えたら夢見悪いし…少しだけならいいよ」すると彼女はわかりやすく表情を明らめ、私の手を握りながら言った。「本当!?なら良かった!来週末までに仕上げなきゃいけないレポートがあってね、時間あんまないから家事を代わりにやって欲しいの。報酬なんかも用意するつもりだから、欲しいものがあったら言ってね!」あまりの勢いにすぐさま後ずさってしまったのだが「報酬…?…あっ、ならさぁ」「ん?」「お腹空いた。ご飯食べたい」私のお腹で、何かが嘶いた。