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「美沙子」

呼ばれて手首を掴まれた。そのまま引きつけられた身体が、重力に倣って座りこむ。その一瞬、ピントが定まって目があった。無傷の美しい目蓋、深い色の瞳、あまりに克明な彼そのものに気を取られた隙に、唇が触れた。

同じブルーベリーの匂いがする。さっきまでガムを膨らませて、わけもなく笑ってくれた唇。

睫毛も触れるほど近くで見た彼の双眼は、耽って閉じられることなく、私を慈しむこともなく、薄い目蓋の下からくっきりと私の背後を見据えて直後、真横に吹き飛ばされた。
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