ルイは美しい少年だった。

伯母がフランスに語学留学していた時に、現地で愛し合った男性との間にできたという話は聞いていた。

ハーフらしい薄い髪と目の色をして、日本人らしからぬ彫の深さとスタイルで圧倒的な存在感があった。

当然と言えば当然だが、小学生の頃は格好のいじめ対象になった。

 当時まだ幼かった私も隣に住んでいたせいで傷だらけで帰宅するルイとよく遭遇した。

「おかあさんたちには内緒にしておいてね。」

 きまってルイは泣きそうな顔で口止めをした。心配をかけたくなかったのだろう。今ならばよくわかる。

 学業も優秀だったルイは、地元の中学校へは進学せず、中高一貫の超有名進学校を受験した。いじめから逃れたい気持ちもあっただろう。生徒のほとんどが東大理Ⅲに進学する程の高偏差値の生徒たちには見た目の美しい同級生をいじめるなどと低俗な思考はないのか、みるみるルイは明るくなった。

気の合う友人もできたようで、よく一緒に私の部屋にも遊びに来た。

「やあ。ニーナちゃん。いつもきれいだね。」

「こんにちは。カイさん」

 カイさんは九州からその中学に入るためにやってきていた。親元を離れて寮に入っているせいで、一人でいるのがさみしいのかしょっちゅうルイの家に出入りしていた。優しい人で私にもよく声をかけてくれる。

カイというのはもちろん苗字の「甲斐」で、私やルイのように名前をカタカナ読みしているわけではない。

 しかしその日はカイの他にも、もう一人見知らぬ顔があった。

「ルイにニーナにカイかよ。ここはどこの国だ?」

 間違いなく同じ学校の友人だろう。賢そうな顔つきだった。

「はじめまして」

「よろしく。俺は柴門(さいもん)。この二人とはずっとおなクラなんだ。」

「ぷ―っ‼」

たまらず噴き出してしまった。サイモン?どこの国だと言っていたその舌の根も乾かないうちに。

「サイモン・・・さんは東京のかた?」

「ああ。地元。上野だからちゃきちゃきの江戸っ子ってやつだな。」

上野だったらここ本郷にも近い。今までなぜつれてこなかったのだろう。