人々は定められた「寿命」に縛られ、来世のしあわせを掴むためだけに生きていた。
死者である朔日 ノアは、同僚の湊 誠司、兎先 楓、浜木綿 叶慧、生者の弟切 風花とともに、世界を変えるために立ち上がる。

 世界は、人類史上最も安定した時代を迎えていた。

 言語や文化は違えど、誰もが同一の思想を有しているのだ。


 前世を讃え、現世を尊ぶ。

 そして—————————

 「来世」を信じていた。


 定められた時に、約束された来世へ旅立つことこそ、彼らのすべてだった。現世いまを生きる彼らが得るべき本当のしあわせは、来世にこそ存在すると考えられていた。


 子どもたちは、七つ歳の洗礼を受けることが義務付けられ、その場で「適正寿命」が告げられる。「寿命」でこの世を去れば、来世は真に幸福なものになると信じて疑うものはいなかった。

【例外】を一つ、除いては。


 【例外】の一人である朔日 ノアサクヒ  は、小さな診療所の内科医をしていた。世界の平均寿命が50歳未満なのに対して、通院する患者の平均寿命は88歳。「かすみ診療所」は、「寿命」を知らないために死ぬことが出来ない人や、死そのものに恐怖を抱き、現世に留まる人を対象とした珍しい延命病院だった。彼らの中には、生きたいと願う者も少なからず存在する。ノアをはじめ、診療所の面々は世界の常識に抗い、「生きたい」と思う人を増やすことを目的としていた。


 来世など、最も信用できぬ幻であると識っていたから。


 「来世」を信じぬ例外…

 それは、死者である。


 医院長の湊 誠司ミナト セイジ、看護師の兎先 楓トサキ カエデ、常連の浜木綿 叶慧ハマユウ カナエ、そして朔日 ノアは、二周目の人生を送る死者。

 死んだ者の中には稀に、神に見初められる者がいる。選ばれた彼らは、不死者として来世へ逝く道を失い、更には、「黄泉の国」で発生する憎悪を宿した人間が転化した悪霊を払う義務が生じることになる。しかし、その代わりに特別な三つの恩寵、「特殊能力・二周目の権利・許可証」が与えられるのだった。


 彼らは二回目の現世を周回し続ける「周回者」である。


 ある日、ノアのもとに1人の少女が来院する。「世界を変えたい」と願う少女・弟切 風花オトギリ フウカは、生者でありながら来世を信じず、皆が手に入れようとしているのは「偽りのしあわせ」であると言った。彼女の祖母は診療所に通院していたが、祖母は「生きたい」と願う者の一人だった。世界は間違っていると主張する彼女に、ノアは心を動かされるのだった。


 一周目の記憶を失っていたノアは、様々な人との出会いを経て、少しずつ記憶を取り戻していった。記憶の断片を掴むごとに、世界に対する疑問は増えていく。洗脳と化した「寿命」と世界の謎を解き明かし、「世界を変えるため」に奔走する。