心配性な彼氏と、言いたいことを言い合える友人。
そんな二人が傍にいてくれるなら、何も怖いことなんてなかった。
「…いいじゃん、週に何度も会っても」
「だめだよ、あたしをあんまり縛らないで」
短い髪が似合う友人はそう言って私を遠ざける。
「…心配しすぎだよ」
「結は隙が多いから。そうやって誰にでも笑いかけていたら相手を勘違いさせるよ」
頭を撫でながら困った顔で笑う彼はそう言って私を抱きしめる。
不満と愚痴をこぼしてしまうけれど、二人のことが好きだった私。
そんなある日――、不慮の事故に遭ってしまう。
「迷惑かけていいんだよ、俺を頼れよ」
―私のお見舞いに来てくれたのは優しくて、過保護な男の人。
「いいよお、我儘言っても。そういうの全然大丈夫」
―我儘を言っても許してくれる女の子。
記憶を失った世界で私は誰かの言葉を思い出す―。
太陽が沈むとき、誰かの背中を見るとき、ベンチに座るとき。
真っ黒な感情に包まれてしまうのはなぜだろう。
「直雪さん、…その人の名前を陸さんから聞くたびに、胸が痛くて…」
私の記憶に眠る彼は、一体誰―?