寂しいなんて言いたくなかった。
自分自身に負けたと感じてしまうから。
だから、どんなに寂しくても虚しくても私は我慢した。布団の中で小さく体を丸めて密かに泣いていた。
けれど我慢すればするほど、寂しさは強くなっていった。人を求めてしまう。
SNSのメッセージを頻繁に確認するようになった。誰かと話していたい。誰かに必要とされたいという欲が抑えられなかった。
誰かと話していても「寂しい」とは決して言わなかった。
言った後にどうなるか分からなかったから。
ある日ネットで出会った男の人と話していると、
「ねぇ、もしかして寂しいの?」
と聞かれた。私は動揺したが、所詮画面越しなのでゆっくりと文字をうった。
『急にどうしたの〜?』
「話し方とか僕に対する接し方に違和感があった。」
彼はそう言った。画面越しだろうとこの人は私をよく見てる。理解しようとしている。この人なら。とは思ったものの、どう思われるのかという恐怖は消えなかった。
「寂しいわけ、ないじゃん!!!!」
そして話を変えた。もっと聞いて、気づいて欲いと思ってしまった。
それから毎日話すようになった。
くだらない話をしたり、その日の出来事を話したりした。
毎日話していてもやっぱり寂しさは埋まらなかった。
今日も布団の中で小さく体を丸める。
苦しい気持ちを紛らわすために人と話す。
「はなそー」
『いいよー』
そうやって会話が始まる。
『夜遅くに珍しいね。』
「ちょっと暇でさ〜!」
いつまで経っても寂しいなんて言えない。いっぱい話したいなんて言えない。
私はきっとおかしい。
『そっか!!僕も少し寂しかったから話しかけようと思ってた〜!』
彼は寂しいと言った。すんなりと。私が言えない言葉を。
なんで、そんなすんなりと言えるのだろうって考えてると通知が来た。
『寂しかったんだね。』
と一言。彼からだった。
私には意味がわからなかった。
分の意味が。
「え、?」
『君も寂しかったんでしょ?』
「なんで?」
『君は反応や、返信速度からして寂しがり屋なんだなぁって!僕、人間観察とか好きなんだ〜!』
私には理解できなかった。返信速度で判断するなんて。反応で分かるなんて。
でも合ってた。
「うん、さみしいよ。」
『やっと言ったね。寂しいって言いたくなさそうだったから。』
「なんでも分かってるんだね」
『なんでも分かるわけじゃないよ。ただ、君は少し僕にも似ている。』
彼も寂しい生活を送っていたらしい。
だけど寂しいと言える人も言えず時間が経ったと言った。
『そこで君に出会ったんだ。君はとても優しい人だと思った。だから僕は君に寂しいと言えたんだ。』
その文章を読んで私は泣いた。
色んな気持ちが溢れてきて涙が止まらなかった。
「そっか、ありがとう」
こんな言葉しか言えないけど、本当に思ってる事だった。
『急でごめんね』
「うん?」
『実は僕、君と話し始めてからずっと好きだった。』
彼は私のことを好きだと言った。
彼はそんな素振りを全く見せなかった。
ただの友達のように私に接していた。
すると電話がかかってきた。彼からだった。私は慌ててしまい、咄嗟に出てしまった。
「も、もしもし!」
『必ず幸せにする。君が寂しいときはそばにいる。好きです。付き合ってください。』
彼は少し緊張したように私に想いを伝えてくれた。直接ではなかったけど、電話越しで。私は彼の行動にとても惹かれた。
私は
「お願いします!!!」
と答えた。それから私達は大人になり、
結婚をし、子供をさずかった。
私は心底この人を選んでよかった。
この人が私を選んでくれてよかったと思った。これからも寂しい時はそばにいて欲しい。
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「もう、僕のこと忘れて。」
君は急に僕を呼び出した。すぐに家を飛び出し君の元へ駆けつけた。彼は僕の目を見てすぐに言う。
「もう、僕のことを忘れて。」と。
理解が追いつかない。
『なんだよ、突然...』
「もう、好きじゃないから。」
『は、?』
そう言って彼は後ろを向き歩いた。
『待てよ!!なあ!!』
僕は彼の肩を掴んだ彼はそっとこっちを向き
「離して。」
と、鋭い目付きで言った。
僕はその姿をみて何も言えなくなった。
彼はゆっくりと僕の前から消えてゆく。
もう手を伸ばしても届かないくらいに離れていた。
それから僕も家へ帰ろうと足を動かした。
すると、視界がぼやけて涙が沢山溢れていた。
何度拭っても出てくる涙に僕は困惑した。
歩きながら泣き続けた。家に着いた頃には泣き止んでいたが、目は腫れていた。
頭の中に彼の顔が浮かんだ。また泣きそうになるが、堪える。
なんで振られてしまったのか。どうして僕と話そうとしなかったのか、何もかもわからなくてただ苦しかった。息の仕方を忘れてしまうくらいに。
それから、彼と別れて3ヶ月がたった。
君と別れてから毎日が息苦しく思うようになった。
楽しかったことも楽しくなくなった。
君が忘れていった指輪も服もまだ僕の家にある。
君は僕を捨てれても、僕は君が身につけていたものを捨てれない。どうしようもない孤独感に毎日襲われる。
君が毎日僕の横で寝ていたのに、突然いなくなったから寂しさで眠れなくなった。
僕はただ、好きだったんだ。
君の声が、君の瞳が、髪を触る仕草が、恥ずかしいと赤くなる顔が、器用なとこが、綺麗好きなとこも全部全部好きだったんだ。今も好きなんだ。
情けないことに僕は毎日泣いている。君を好きになってしまったから、毎日好きになんてならなきゃ良かったっておもってる。
連絡先も未だに消せてない。心のどこかで連絡が来ないかと期待している。
きっと僕はバカだ。きっともうあの人は帰ってこない。それでも待っている僕は一体...
すると、通知の音が鳴った。ハッとして見てみると彼からだった。
(今から少し会えませんか)
僕は急いで家を飛び出し彼の元へと向かった。
『久しぶり。』
「う、うん」
少しの間無言が続いた。
「ど、うして、急に呼んだの。」
『君のことが忘れられなかったからだよ』
「でも、振ったのは君からじゃん。」
そう言われ僕は少し腹が立った。
自分から振ったくせに、僕の気持ちなんて知らないで。そう思ってしまった。
彼は少し寂しそうな顔をして言った。
『君に僕のことを忘れて欲しかったんだ。』
「は?なんでだよ」
『僕じゃ君を幸せに出来ないと思ったから。』
「そんなの...勝手に決める.........」
『だから、最後に1回だけ会って終わりにしようと思って呼んだ。…』
彼は最後を3ヶ月前に作っておきながら今もまた最後を作ろうとしていた。僕には自分勝手に思えた。
『だから、お願い。これで最後だから。もう、僕のことを忘れて。』
その言葉を聞いてなにかの糸が張り裂けたような気がした。
「ふざっけんなよ!!僕のこと忘れて?なら忘れ方教えろよ!!3ヶ月前お前が僕を振った日から僕は毎日苦しかった、毎日寝れなくなった、毎日毎日お前からの連絡を待ってたんだよ!!」
頭が混乱して彼の顔を良く見えない、ただ驚いていることだけはわかった。だんだん涙で霞んでく目はいつしかぼろぼろと涙がこぼれていた。それでも僕は言った。
「幸せに出来ないとかお前が決めることじゃねぇだろ!!僕が決めるんだよ!!勝手に決めてんじゃねぇ...!!」
僕は、僕は...
「今でもお前のことが好きなんだよ...。もう、捨てないで...。」
彼の顔をゆっくり見ると彼は泣いていた。
僕を真っ直ぐ見つめながら泣いていた。
そして彼は僕をそっと抱きしめた。
『ごめん。君の気持ちちゃんと考えてなかった。』
「ほんとだよ。ばか。」
彼の腕の中はやっぱり居心地が良かった。彼の匂い。1番心が安らぐ場所だと改めて思った。
そして僕は彼に問う。
「僕のこと好きか?」
『あぁ。好きだ。』
「もう僕から離れない?」
『離れない。そばにいる。』
「幸せに出来ないとか考えない?」
『考えないようにする。』
「幸せに出来ないとか僕が決めることだからね。」
『そうだね。ごめん』
その日、彼は僕の家に泊まり、起きたら横で眠っていた。僕は安心して思わずまた涙を流してしまった。それに気づいた彼は無言で僕を抱きしめて頭を撫でてくれた。
それから毎日起きれば彼は隣にいるし、朝食も夕食も僕の料理を美味しいと頬張ってくれる。
幸せがやっと戻ってきた。そう思った。
__________________
誰が誰を好きになろうが私たちの勝手。
ただ私は同性の咲を好きになってしまっただけ。
親友を好きになってしまった。
でも咲は蓮という男子が好きらしい。
叶うわけのない恋を今も背負っている。
だけど蓮は私によく話しかけてくる。
咲はグイグイ行くほうで咲からは鈍感と言われてた
でも私には分かる。私は咲がすき。でも先は蓮が好き。連は...私のことが好き。
上手くいくわけが無いこの関係をどうしたらいいのかまだわからない。
「夢〜移動教室一緒に行こう〜!!」
咲が私を呼んだと分かりすぐ駆けつけようとすると
『俺も一緒に行っていい?』
「...!?いいよ!!」
恋が一緒に行こうと言い出した。
3人が一緒なんて気まずすぎる。
恋と咲が話している。私は特に話さない。
恋と咲が、仲良く話してるのは少し嫌だけど、仕方がないことだから。と我慢する。
授業は終わり私は1人で帰ろうとしていた。
すると恋が着いてきた。
「ねぇ?なんでさっき話さなかったんだ?」
『んー、話すことがなかったからかな〜』
なんて嘘をつく。親友の、好きな人の恋を応援しなければならないと思ったから。
「ふーん。ならいいけど、これからは話せよ〜」
『うん』
私達3人は同じクラスだ。
だからほぼずっと一緒にいる。そんな中で恋が芽生えるのは仕方ないことだと思う。だけど私は恋なんて芽生えなければとずっと思ってる。
「ねぇ夢。さっき移動教室の帰り恋と一緒に帰ってたでしょ。」
『え?うん』
嫌な予感がする。咲をずっと見てきたからわかる。
怒ってる。
「私が恋のこと好きなの知ってるのに申し訳ないとか思わないの?なんで一緒に帰るの?」
『私から誘ったわけじゃない』
どんどん雰囲気がぴりぴりしていく。
周りの人達も咲の声に反応してこっちを見ている。
「ねぇ2人でいること多いのなんでなの?夢、本当は恋のこと好きなんでしょ!?ねぇ!」
ちがう。咲が言ってることは間違ってる。って言いたいのに、声が出ない。怖くて、どうすればいいかわかんなくなって声が出ない。咲の声と私の心音が聞こえる。話せないことを伝えようと咲の方を見ると私を殴ろうをしてくるのが目に映った。
すると恋が目の前にいた。
「おい。何してんだよ」
どこか安心してしまったのか涙が溢れ出てきてしまった。
「夢が私の好きな人をとろうとしてくるの!」
荒れてしまった呼吸を整えて、話す。
『ち、ちがう。私が好きなのは恋じゃなくて、』
また声が出にくくなる。周りの声がシーンとして少しでも物音を立てると響く。
「私が好きなのは、夢だよ」
思わず泣いてしまう。何を思われてもなんでもいいから私は_。
何を思われてもいいなんて嘘だった。咄嗟に足がでた。気づくとその場から逃げ出していた。
屋上への階段を駆け上がる。後ろから恋の声がする。
私はそれを無視して屋上で泣く。
悔しかったし悲しかった。沢山そばにいたのは私なのに咲には恋しか見えてなかった。
それぞれが好きな人に没頭してしまう。
仕方ないことなのか。
「おい!!夢!」
『なに』
「泣くな、ちゃんと話し合おう。」
『少し待って。』
「分かった」
沈黙。話す気にはまだなれない。
話したとしても結果は同じだから。
みんながそれぞれ失恋する。それもまたいいのかもしれない。
『話そう。』
少しして私は恋に言った。
恋は咲を呼んでくると言って屋上から出ていった。
咲になんて言われるだろうか。
「来たよ。」
そう恋が言う。
目を合わせれない。どんな顔をすればいい?
私が女の子を好きなんて気持ち悪いと思うだろうか。それとももう友達を辞めてしまうだろうか。
なんてことを考えていたら地面にぽつりと雫の跡があった。前を向くと咲が泣いていた。
『え?な、なんで、?』
「だって、私、ずっと恋の話して夢を苦しめてた...」
咲は泣いている。私はそれを呆然のしながら眺めている。咲は私に謝る。泣きながら。私に謝る。
『私こそ、好きになってごめん。』
「なんでそんなこと言うんだよ」
すると恋が怒ったように言ってきた。
「好きになることの何が悪いんだよ。謝ったって何かが変わるわけでもねーだろ…」
そう言って恋悲しそうな顔をしていた。
「俺は夢が好きだ。」
『私は咲が好き。』
「私は恋が好き。」
綺麗な三角関係。それぞれがそれぞれを好きになった。それが複雑になった結果がこれだ。
そしてその後の結果ももう分かりきっている。
みんなともう仲良くなれない。友達じゃなくなる。
すると恋が言い出した。
「じゃあさ3人で付き合おう」
ぶっ飛んだ考えに私と咲は呆然としてしまう。
「そしたら俺たちの関係崩れなくて済むし、何より平和的解決できる。3人が3人を好きになるのはゆっくりでいいとおもうんだ。」
恋の説明で私達は納得し付き合うことになった。
私達は恋をしている。恋愛をしている。
難しい問題を今解いた。
卒業した1年後の今では3人が3人を好きになり、同棲を始めた。これが私たちの恋愛。
___________________
私は放課後の誰もいない教室が好きだった。
晴れた日は夕日が綺麗で一人で本を読む。
雨の日は雨の音を聞きながら勉強する。
そんな生活を繰り返していた。普段でも静かな方で、友達は多いってほどいる訳では無い。
ただ最近やけに私に絡んでくる男子がいた。
一人の時間をすごしているというのに邪魔をしてくる。静かな空間がうるさくなってしまう。
今日もきっと私を邪魔しにくる。
今日は晴れていたから夕日が出ていた。
もちろん私は本を読む。窓側の席で1人だけの時間を_と思っていたのにやっぱり来た。
『なにしてんのー?』
「本読んでる。」
見て分からないの。と口に出してしまいそうだったがグッと息を飲んだ。余計なことをいえば彼もまた余計に喋りかけてくるから。
『ふーん?隣座っていい?』
「なんで?」
『葵ちゃんがどんな風に本を読むよか知りたいから』
訳の分からないことを言われて困惑してしまう。
「か、勝手にすれば」
誰もいない。と自分を言い聞かせながら本をみる。
作者と物語に出てくる登場人物の気持ちを考えて読む。そうすることによって現実でも人の気持ちを考えやすくなるのでは?と考えたから。
けど、物語に入れば入るほど登場人物に同情して涙が出てくる時がある。最悪なタイミングで感動で泣いてしまった。
『え、泣いてる...?』
「泣いてない。見ないで。」
私は彼に背を向けた。彼は私の背中を優しく声をかけながらさすった。
『本読んでるだけで泣けるの?』
「...泣けるよ。」
変な質問をしてくる彼に私は質問の答えを言うのに少し時間がかかった。
『どうして?』
「...何なのさっきから泣いてる私を見て面白がってるの?」
私は彼が考えてることが全く分からなかった。
イライラして少し強く当たってしまった。
『泣くってことが不思議だった。ごめん』
「...強く当たっちゃってごめん。でもなんで不思議なの?」
彼は『えっ』と口にし、動揺した様子だった。
『いやぁ、なんでだろうね〜〜』と笑いながら
用事があると言い教室を出ていった。
泣くってことが不思議と言った彼の考えをどうしても分かりたくて日が暮れるまで教室で考えた。
彼にとっての不思議とはなんなんだろう。
興味だろうか。興味だったとして涙に興味を持つことがあるのだろうか。
そういえば。
彼は私になんで不思議なのと聞いた時動揺した。
不思議な理由がもう彼の中にはあるということか。
また明日聞こう。そう思い、教室を出て歩いて家に帰った。
「おはよ、蒼空くん」
彼は驚いていた。私から声をかけたことに。
『あ、うん。おはよう』
気まずそうな顔をして、私の前を通り教室に入ろうとした瞬間、私は躊躇もなく聞いた。
「昨日のさぁ。泣いてるのが不思議な理由、もう蒼空くん分かってるんじゃないの?」
彼はハッとしたようにこちらを向き瞬きを5歳した。
明らかに動揺していた。
『えっと、また放課後教室行く。まってて。』
そう言って彼は自分のクラスへと入っていった。
放課後になって彼が来るまで本を読んでいた。
するとまた突然涙が出てきた。彼にとっての不思議がまた__
『ごめん、遅くなった..._』
声にびっくりして咄嗟に泣いたまま振り向いてしまった。彼はびっくりした顔でこっちに近ずいてきた。
『また泣いてる。』
私の頭を触り私の様子を伺っている様子だった。
「昨日の本の続きで泣いちゃっただけ。」
『そっか。よかった』
「それで泣くってことが不思議な理由教えてくれるために待っててって言ったんだよね?」
『うん』
彼は頷き、私の目をじっと見つめた。
まず彼は一言目に
『俺は泣けないんだ。』
そう言った。病院にも言ったそうだ。だけどなんの異常もなくて、原因不明が6年続いてるんだそうだ。
他の人が泣いてる姿を見ても泣くってことが不思議じゃなかったらしい。だけど私が泣いた姿を見て初めて泣くってことが不思議に思った。と言われた
『葵ちゃんの涙がものすごく綺麗で、びっくりしたんだ。』
その言葉を聞いて何故か恥ずかしくなった。
彼は切ない顔をしていた。そんな彼を私は抱きしめたいと思い、思わず抱きしめてしまった。
『...!?どうしたんだ?具合悪いのか?』
「.わ.....が、な...るよ...す...ら...」
『え...?』
「私が蒼空くんを泣けるようにさせるから!!」
泣きながら彼に伝える。今までこんな人に出会ったことがなかった。涙が出ないなんて辛いに決まってる。悲しい時、辛い時、寂しい時、泣けたい時に泣けないなんて。辛いに決まってる...。
『大丈夫だよ...葵。』
彼はぎゅっと抱き締め返してくる。
「なんで...?」
すると首ら辺に水滴が落ちた気がした。
まるで誰かの涙__
『もう泣いちゃった』
彼は泣きながら私に微笑んだ。
彼は確かに泣いていた。彼にとっての苦しみが消えた瞬間だった。そして同時に私は彼がなぜ泣くのが不思議なのか分かった気がした。
彼の涙は余りにも美しくて私まで涙が零れてしまう。
『泣かないで、葵。ありがとう。』
そう言って私を再び抱きしめた。
そして彼は私の耳元で
『好き』
と囁いた。その日から彼は涙が出るようになり、切ない顔もめったに見せないようになった。
そして私たちは成人して結婚した_。
結局、涙が出なかった原因は愛が足りなかったのだという。
____________________
誰かとの思い出なんかいらない。
私には必要ない。スマホの中の写真なんて1つや2つの操作で消せる。ましてや機会から出てくる写真こそただの紙切れ。簡単に切れるし簡単に破ける。思い出をこの世に残して何になるというの。
どうせその写真に写ってるやつらは私の周りから消えていくというのに。私だって思い出に残したかった。みんなと同じように一緒にいてくれる人との思い出を写真として残しておきたかった。
でもみんな私を1人にするの。
みんな私を無視するの。
私の事無視するくせにみんな悲しそうな顔をするの。
みんな最後には私にお花を渡すの。なのにみんな写真すら撮ってくれない。私はみんなにとっていらない存在なの、?教えて...
『ねぇ、誰か教えてよ!!!』
「君が死ぬことを思い出にするなんて無理だよ。」
ふと声がした。黒い影は私が死んだと言った。
『なんで私は死んだの...?』
すると黒い影は悲しそうな声で私の質問に答える。
「俺を守ったからだ。俺は道路にいた猫を助けようとした。だけどそれは君も同じだった。同じ場所に居合わせ同じ時に跳ねられた。だけど君は瞬時に誰かも分からない俺を守ったんだ。」
「だから君は死んだ_。」
そっか。私、ちゃんとあの時守れたんだ。よかった。
「そして、君のスマホにはたくさんの画像があった。友達との写真が沢山。思い出だよ。思い出が沢山君のスマホに残ってるんだよ。」
『私のスマホ勝手に見たの!?』
だけどおかしい。あの状況で私があの人を守ってもあの人は大怪我を追うはず。なのに私のスマホを見れるはずがない...。
「見ちゃあいないさ。君があまりにも大切に持ってたのが見えたからね。単なる憶測さ。」
『そうなの。』
思い出なんかスマホさえ壊れてしまえばすぐになくなるのに。コピーしても燃えるし破けるし切れちゃうのに。なんで涙が止まらないの。私には_
『思い出なんか必要ないのに!!!』
思わず叫んだ。叫んだ後にハッとし、口を閉じる。だけど黒い影は突っ立ったまんまだった。
「本当に思い出なんていらないの?スマホに写真が沢山あるのは君が必要としないから?」
まるで傷口をえぐられてるような感覚。刃物をグリグリと押さえつけられてる。そんな気がした。
『だってっ...!私に思い出なんてあったら思い出の中の人達が可哀想じゃないっ...!!』
私はもう死んでいる。なのに私の友達のスマホの中部屋の中には私がいる。私がいることでその子たちは何度も涙を流すの。
それが私は嫌なの。
「そうだね。でもみんなの頭の中に君が居なくなるということは君は独りだよ。」
『それでもいっ...』
「良くない。君は分かってない。みんなの中に君がいること。それがどんなに大事なことか。もちろん涙は何回も流すと思う。だけどそれ以上に君の存在が大切だったってこと。」
そんなこと言われたってっ...
なんて言えなかった。黒い影。影のはずなのに真っ直ぐとこっちを見られている気がしたから。
この人の話を聞くべきだと思った。
「だからね。写真にこだわることないと思うんだよ。記憶の中にあるんだからさ。まだ君の記憶の中に思い出沢山詰まってるんでしょ。」
『うん。』
「ゆっくりのんびり思い出に浸ろう。」
その言葉で私には光が差した。黒い影が消え、姿が見えてくる。
私の目に写ったのは、大好きだった彼だった。
『なんでここにいるの!!?私死んでるんだよ!?』
そこで私はハッとした。私は彼を守れてなんかいない。彼が私を守ったんだと。ここで気がついた。
「優衣。君が死んでなくて良かったと心から思っているよ。」
『優希!!!!!!!』
私は彼の名前を叫び続けた。視界が暗くなっていく中、彼は笑顔で私の名前を呼び、消えていった。
目が覚めると病室だった。母は私を見て目を大きく空け、看護師を呼びに行った。
私は1年もの間思い出に浸っていたらしい。