朧の花嫁<夏の思ひ出>

作者みちふむ

「おばあさま。今年は私が神社でお札をもらってくるわ」

「すまないね。お前にばかり頼んでしまって」


そこに母親が顔を出した。


「あら。お出かけ?だったらこの手紙を出してきなさい」

「はい」


きつい母の指示。十二歳の清子はうなづいた。そこに妹も顔を出した。


「ねえ、お母様、お姉様だけお出かけなんかずるいわ?私もお出かけしたい!」

「そうね。今からデパートにいきましょうか。夏のワンピースを買ってあげるわ」

「嬉しい。前のは古くてもう嫌だったのよ」

「帰りはお食事をしてきましょう。清子、家のことはお前に頼みましたよ」

「はい」


そして二人が先に出かけていった。床の祖母はやっと話をした。


「さあ。これはお小遣いよ。清子も何か好きなものを買っておいで」

「じゃ、スイカを買ってくるわね」

「そうじゃなくて、お前の好きなものよ。スイカは重いから要らないの」


そう言って祖母は笑った。


「時間は気にせず、のんびりしておいで」

「ここにお水を置いておくわね。では、おばあさま。行ってきます」


顔の痣を手拭いで隠した午前中、清子は伊地知家を後にした。


久しぶりの自由時間。足取りも軽かった。




このお話は「朧の花嫁」のショートになります。本話はこちらになります。近日、続きを公開予定です。

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