とても普通の日常。
文化祭が近づいて
いつもと同じ帰り道

いつもと同じを求める自分と
心のどこかでは変化を求める自分

そんな時
いつもの帰り道
もどかしさの中で
未熟な自分と
君と僕との一番短い
ラブストーリー

通学に汗をかかなくなったころ

文化部の私たちにとって

急に慌しくなる季節がくる


演劇部でも最後の仕上げのため

遅くまで校内に残る日が増える


それでも時間がくると

「さよなら」を言い合い家路を急ぐのだが


今日は少し違った



「もうすぐ文化祭やね」

彼女が切り出した


夕焼けに染まる公園が二人を包み

沈黙を生み出す


学校からの帰り道

住宅街にある

どこにでもある小さな公園の

二つぽっかりと空いたブランコにかけて


数日後に迫った文化祭の話をしようと

たわいのない会話で時間をつぶす


ただ、

そうだよね

わかるんだけど


よくある「先輩」「後輩」の関係で

いつの間にか恋の話を語りだすんだ


「あ~、私なんて誰も好きになってくれへんのかな?」


おいおい

突然何を言い出す!


とにかく、

なんて答えればいい?

僕は正解のない

「答え」を見つけられず

彼女の横顔をじっと見つめる


呆気にとられている僕の顔を見ずに

彼女は立って

遠くを眺めながらブランコを漕ぎ始めた




僕の視線に気付くと

こわばった顔に不自然な微笑みを作り


「どうしたの?」やって


『どうしたの?』ちゃうやろ!


僕に何を望んでる?


彼氏とは違う学校で

何か月も会ってないことは知っている


経験したことのないことのない

この状況

対応できるわけがない


「いや~オレは好きやけどなぁ 

 お前の明るい元気なとこ!」


薄暗くなっていた街に二人の長くなった影と


長い沈黙



苦手なんだよなぁ


いつも学校では笑顔しか見せない

彼女の裏側を見た気がした


「帰るか?」


もちろん切り出したのは僕から


この状況はいったい何!?

勇気づけることも励ますことも

僕にとっては今までに経験したことのない

最大級の「アクシデント」

言葉に少し悩んだけど


まだボクは『おとな』じゃないからと

逃げ道をつくる



公園の出口から 

「さよなら」を言って

左右に分かれて歩き出す


彼女は歩きで

僕は自転車をおしながら

一歩、二歩・・・


少しずつ距離が離れていく


10m・・20m・・・

鼓動が激しくなる


そろそろいいかな?


ん!


ちょっと待てよ!

何考えてねんオレ?!



「あっ あのな!」


彼女がゆっくりと振り向く


「さっき言ったん、本気やからなっ!

 好きやで、お前のこと!」


しばらく彼女の眼を見つめ

彼女もボクを見つめ返す


驚いていたのか 少し期待していたのか・・


 1秒あるかないかの永遠と思われる時間


僕は

自分が発した言葉の意味が

冷静に理解できない


あわてて前を向き

自転車にまたがると

立ったまま

勢いよくペダルを回す


吹き付ける秋風は、少し肌寒く感じたが

とにかく芯が熱い


呼吸は

奥から次々と生まれてくる

熱い激しい何かを

簡単に

体の外には出してくれなかった