美咲はとあるクラブでのイベントで、祥と出会う。祥は、解散した老舗ロックバンドの最後のギタリストだった。そして、病死したバンドリーダーの追悼ライブに来ないかと誘いを受ける。美咲は、時と場所を同じくして、偶然にも同じ高校の同級生だった璃生と再会する。
冷たい雨が、街角の震えている桜の蕾(つぼみ)に、容赦なく降り注ぐ。
時折、海を渡る強い風が街中(まちなか)を吹き抜けると、風に舞う雨粒を避けるように、人びとは足早にその場を去って行く。
そして、冬の名残りと共に動き出した運命の糸が、まるで目覚めの時を待っていたかのようにゆっくりと絡(から)まり始めた。