◆戦場を選ぶ理由。
カカオの実を、僕はすぐに落とさない。
だって、いつも君は下にいて、木の上の僕を眺めていたから。
「チリチリ頭の猿みたい」
コロコロと笑うコゲ茶の肌と真っ白い歯。
その手、指、君の傷を見つけるたび胸が泣いた。
銃声が響く。魂の抜け殻達の声が聞こえた。
生ある同志よ、この屍を踏み超えていけ。
生ある同志よ、戦え。国を変えるために。
燃えた太陽が瓦礫の向こうに沈んでゆく。銃声が沈黙し静寂が訪れる。銃を胸に抱き空を仰げば、星空の壁紙に浮かぶのは君の姿。
頭にドンノ、上に濁った水を揺らしたバケツを運ぶ君しか知らない。
あちこち破れ、乾いた泥で模様が隠れたワンピースしか知らない。
ナタを持ち、硬い実を割る君しか知らない。
『学校に行きたい』
君のその涙で、僕は戦場を選んだ。
『透明な水を飲んでみたい』
そのために命を賭ける。