帰り支度を終えて、同僚に声をかける
外に出ると冬の空気が髪を揺らした
「さっっっむ!!」
肩を縮ませて小走りに車まで走る
帰りに買い物があったことを思い出し
車を走らせると、立てかけてあるスマホが
見知らぬ番号の着信を知らせる
…誰だろう、登録はしてない…
でもどこかで見覚えがあるな……
着いたばかりのお店の駐車場で
電話にでてみた
「あぁよかったぁー出てもらえた」
…この声は…
「アルクの長沼さん?」
「あ、はいそうです」
仕事の取引先のセールスマンだった
「突然すみません…今お電話大丈夫ですか?」
「あ、はい大丈夫ですよ…でも何で私の番号…」
仕事終わりにわざわざかけてくるなんて…
「私、何かご迷惑おかけしました?!」
「あ、違いますよ!番号はこの間お邪魔したときに
事務所の机に貼ってある一覧からこっそりと」
何なんだろう、意味が分からない
「何かあったんですか?」
「このあと、暇ですか?」
「…はい?…うぅんと、買い物したら家に帰るつもり」
「じゃあ暇なんですね?」
…何だろう
営業トークの時と違ってなんだか…
暇だったらどうなんだろ
なんか失礼だなぁ
「なぁに?長沼さんと違って相手いないんで。
用がないなら切るよ」
「なんか怒ってます?」
なんなんだ、しつこいなぁ
こっちは仕事で疲れてんのに
からかいたいだけ?
ふぅ、とため息をついたら
「飲みませんか?一緒に」
「どこで?」
「その辺で。たまに仕事からはずれて
話がしたいなぁと思って。だめですか?」
…のみたい気分ではある
知らない人じゃないし、ちょっと位ならいいか…
私は誘いを受け、指定されたお店へ車で向かった
「だいじょぶ、終電で帰って明日取りに来るから」
車の心配をされたので、まずは一通り説明したら
平日の夜の飲み会を開始した
「突然さそっちゃってすみません」
「いいけど、大丈夫?
彼女に見られてもめたりしないでよ?」
「あ、それは全然大丈夫です」
「…なんか失礼じゃね?私なら大丈夫ってこと?」
「いやいやそーじゃなく笑
とりあえず飲みましょう?」
適当にはぐらかされながら
お互い仕事のグチや裏話を聞き合いながら
時間はすぎていった
「あぁーもぉこんな時間かぁ…」
「あ、ホントだ。どうします?このあと」
「明日仕事だからこのまま朝までって
ワケには行かないし…もぅかえろっか」
あははっと笑ってカバンを手にした私の手首を
ぐっと掴んで下から彼が見上げる
「このまま俺んちで飲む?」
「明日きつくない?飲み足りないけど…さすがに
彼女に申し訳ないでしょ」
「ソレはホントに大丈夫だから。
俺ももう少しグチりたい。近いから歩いていこ」
…何にも考えずにうなずいてしまったけど
彼女とはちあわせとかないよねぇ…
この後も仕事で会うんだからイザコザはイヤ
うぅーんと悩んでいるとふいに手を引かれる
「どしたの?早く行こう。あ、酒買ってこ」
…いや、ホント大丈夫?
もしかして彼女との悩みとか聞いてほしいのかな
弱ってるときとか、甘えたい時もあるか…
何となく流されながらコンビニで
お酒やつまみを買い、長沼君の家まで
ずっと手を引かれて歩いた
その間も、仕事の疑問やうちの会社の
人間関係を聞かれたり聞かされたり
「はい、どーぞ。家の中あったまるまで上着
脱がないでね」
んー、と軽く返事をしながら
部屋の中を見回す
…あんまり彼女の痕跡ないけど
片づいてるな、ココ
「ねぇホントに彼女、大丈夫?」
つまみを皿に空けて運んできた彼に聞くが
「大丈夫だって。はい、乾杯」
すでに部屋着の彼に促されて缶を開けて飲み干す
それにしても若いからか、仕事離れるとやたら
フレンドリー…
営業マンならではの話のうまさとか、さすがだな
お酒でフワフワしながら聞いていると
彼は私の話を聞きたがっているようで
「マジで彼氏とかいないの?」
「うう?なぁにー…バカにしてんのぉ?」
むぅ、っとして缶酎ハイを飲み干した
「してないって。なんでそんなひねくれてんの?」
「…ひねくれてないもん。
自分が幸せだからってなんだよぉ」
新しい缶に手をかけて、はい、と彼にも渡す
「ペース早いけど、大丈夫?俺は大丈夫だけど」
「んん…そっか…そぅかな…やめたほぉがいーか」
でもなぁ…も少し飲みたい気分…
缶を見つめて悩んでいるとハハッと
笑い声と共に抱きしめられた
ドクン と
心臓が飛び上がる
「あー…いっつも思ってたけど
なんの匂い?いー匂い…仕事で会うとき
最初誰からの匂いかわかんなくて」
首筋に鼻を寄せて
すぅっと息を吸い込む音がする
ゾクッと快感が走り
「んっ!」
と声が漏れてしまう
ビクッとして固まった
私を抱きしめる彼の腕に
一層力がこもった