人魚に溺れて。

作者ぷっきー

高いビルの間。


日本一歩行者の多いだろうこの交差点で、俺はなぜか立ち止まっていた。


見慣れたはずのその光景に一人立ち止まり、同じく空を見上げながら立ち止まったままの女に目を奪われてしまい動けずにいた。


誰もが焦りながら道を進む昼過ぎのこの時間にその女はまるで水の中にいるかのように、静かに進む。


美しい長い髪を揺らし、まるで人形のような無表情な顔でこっちへ向かってくる。


この交差点に恐ろしく合わないその女と他との違和感。


誰もが一緒を望む今、他と違う者は変人、協調性がないと言われ、他より優れている者でさえ、違和感を生むものは嫌われる。


だけど、限られた世界でそれらは天才と呼ばれることもある。


芸能界でもまた人と違う空気感を持ち、どこにいても人と馴染むことのできないその違和感を"オーラ"と呼ぶ。




退屈だと思い始めていた芸能界での可能性を持った少女。


息をするのを忘れ、俺は彼女に見入っていた。


まるで深い海の底にいるかのような時間が止まったような感覚。