ひろ美

たった一度の選択が人生を狂わせる
サスペンスを予感させるような妖しい序章のあと、『テルくんは、歯がきれいだ』という爽やかな冒頭から始まる本編。

この小説の中で、『歯』は物語の象徴的な役割をしています。
主人公ツカサが想いを寄せる高校男子テルくんは、輝かしい将来を約束されたかのような完璧な人物。ところが年上の教育実習生に惚れてしまったことから、彼の人生はすこしずつ狂い始めていきます。

短絡的な選択をした彼は、綺麗だった歯も失うほどの、一番したの景色を見ながら生きることになりました。

たった一度の選択が未来をガラリと変えてしまう。その怖さがツカサの目を通して伝わってきます。

「一番したと言うには底が浅い」というレビューもありましたが、それは読者自身による主観にすぎません。
少なくとも主人公ツカサとテルくんにとっては、いま目の前にある現実が一番の悲しみであり、「一番した」に見えたのです。

あんなに輝いていたテルくんが、あそこまで落ちてしまう様はみたくなかった。とても胸が痛くなる結末でしたが、人生が選択の連続である以上、このようなことは誰にでも起こり得ることなのかもしれません。