上
都会はほんとに雪が少ないなー。
これじゃ、雪だるまも作れないや。
はっと吐いた息は、白くてすぐに消えていく。
「ごめん、お待たせっ!」
マフラーしてるのに赤い鼻で
トナカイみたいな彼は、私の彼氏。
瀬尾 力也。
背が高くて髪はふわって柔らかくて、
私に一番優しくしてくれる人。
まだ11月下旬なのに、今年は寒くて
みんなコート、マフラー、手袋に身を包んでる。
「もー、凍えるかと思った。」
少し怒り気味で言うと
彼はやさしく手を繋いで
「これであったかいでしょ?」
ってドヤ顔。
もう、その笑顔は反則ダ。
去年の今頃の私は
きっとこんな思い出できるなんて
思ってもいなかった。
この幸せが、あたりまえな毎日が、
ずっと続きますように。――――――――
そういえば、もう少しで私の誕生日。
去年のこの頃はまだ付き合ってなかったから、
親友の聖令名と二人だけだった。
でも、力也は私の誕生日、わかってるのかな?
「いやー、彼氏の癖に
彼女の誕生日忘れるとかナイわー。」
次の日、聖令名に相談してみると、
ドライな聖令名にあっさり言われて悔しかった。
「ま、まだ、忘れてるって決まったわけじゃないし!」
「まだ、ねぇ〜。」
聖令名の不敵な笑みに私は余計に不安になった。
もし、ホントに私の誕生日、
わかってなかったらどうしよう。
すっごい、切ないね。
朝からずっと一緒にいて
夜はイルミネーションみて
2人でケーキ食べてさ。
そんなの夢で終わるのかな?
そんな訳ないよね?
ギリギリで言ってくるタイプ?
サプライズだよね!
ってなに言い聞かせてんだ、私。――――
12月3日、東京に雪が降った。
まあ、雪だるまなんて作れる量じゃないけど。
「淋しかったら電話しろよー。」
聖令名に言われ、私は反応してしまった。
「は、はあっ?!私の誕生日は明後日ですから。」
でも、本当は。
不安で仕方ない。
すっごく、すっごく。――――
12月4日、ついにバースデイイヴ。
ちょうど今日は金曜日で明日は休み。
一日中、一緒にいれるよね、力也?
「本気で淋しくなったら電話ね。」
またしつこく言う聖令名。
「わーってる!まあ?
全然淋しくなんてないし!」
また強がっちゃったけど
もう少しでプレゼントだよね?
期待してて大丈夫だよね?
なんでこんなに不安にさせるの?――――
いつもみたいに今日も力也と二人で帰る。
でも力也はいつもみたいにクラスの男子の話とか。
昨日のテレビのこととか。
あれ、いつになったら言うの?
明日どっか行こ、って。
ほら、駅に着いちゃったじゃん。
あと8分で電車が来ちゃう。
「ねえ、」
「ん?」
普通の顔して応える力也。
「あ、や、なんでもない。」
あと5分。
「力也、明日部活?」
「ううん、ないよ。」
「そっか。」
あと1分。
「ねえ、あのさ...!」
「ん?」
《まもなく18:13発○○行きの電車がきます。》
「あ、来た。」
力也待って。まさかほんとに知らないの?
私はギリギリまで信じてた。
ドアが閉まるそのギリギリまで。
「じゃーね。」
少し微笑んで小さく手を振る彼に、
私は泣きそうになるのをこらえて手を振り返した。
信じてた彼女。
忘れてた彼氏。――――
つづきは下で!!