尾塩 遊

不透明からの浮上
最初は、読んでいるうちはいま自分がどの目線を読んでいるのかなど、掴みにくく、とても不鮮明な世界のなかを進んでいるような気分になります。そこに広がる世界をつかみたくて、読み進めていくと、だんだんと世界が透明になったように、物語の全容も明らかになっていきます。この、読者の感情、感じ方と作品の進み方の一体感が半端じゃありません。加えて、短編であるはずなのにこの重厚感。読み終えたあとはさながら長編小説を読んだ後かのような、心地よい疲労感。この小説を一言で表すのなら、まさに圧巻です。ラストのページまでぜひ、一息に読んでいただきたいです。