それは突然の出来事だった。なんの前触れもなく現れた彼は、私に向かってこう言った。
『お前を迎えに来た』
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『雪姫にはね、婚約者がいるんだよ』
父のあまりにも唐突な言葉に、私は目を丸くした。
『……は?お父さん何言ってんの?今どき婚約とかありえないでしょ。そんな冗談私には通用しないからね!』
『冗談なんかじゃないよ、雪姫。実は今日その婚約者の方が────』
『あっもうこんな時間じゃん!私学校行くから!行ってきまーす!』
(もう、お父さんが変な話で引き止めるからいつもより遅くなっちゃったじゃん…)
小走りで学校へ向かうと、少し先を歩く親友のミナの姿が目に入る。
『ミーナっ!』
後ろから声をかけると、声で気付いたのかミナは笑顔で振り返った。
『雪姫、おはよう!』
『おはよ!ねぇー今日提出の数学の課題見せて!』
『えぇー?またやってないの?しょうがないなぁー』
『ありがと、ミナ!今度何かおごるね!』
『えー、そんなのいいよー。それより雪姫、今日誕生日でしょ?はい、プレゼント!』
『わっ、ありがとう!ミナ大好き!』
『ふふっ私も雪姫大好きだよ!』
その後も他愛もない会話をしながら、私たちは学校へと歩いていった。
ミナは小学校からの幼馴染みで、私の一番の親友だ。クラスも小学校からほとんど一緒で、お互いのことは何でも分かっているような、そんな間柄だった。ミナに対しては隠し事なんかできなくて、もちろんする気もなかった。そう、この日までは────。
ミナの助けもあり、無事に数学の課題を提出した私は、いつも通り授業を終え、ミナと共に校門を出た。
2人で話しながらの帰り道は短く、ミナと別れてもうすぐ家に着くという時、その人に出会った。
この出会いが、私の人生を急激に、全く予想もしなかった方向へと変えていくことになるなんて、この時の私は知る由もなかった────。