繭結理央
交点の暖かさ
相互リンクのできない、2つの一方通行がクロスした物語。
この著者の面白さは、クロスのかなわない切なさを全体的に取りあげるのではなく、クロスの「交点」にスポットをあて、切り抜き、丹念に暖めているところ。
開放的に見えて、実は密室芸な面白さ。
由佳の矢印と、遼太郎の矢印、伸びる先はそれぞれ違っているのに、なぜかラインが交わっている。つまり2つのラインには、交点という、確かな「触れあい」がある。
ここで交点を過ぎれば、また別々の、独立したラインになってしまう。しかも絶対に相互リンクできない。だけど、絶対に突き抜けない。由佳たちをも巻きこんで、交点を暖めている。ホットラインならぬホットポイントの物語であるため、体温の暖かさが常に読者を包んで離さないだろう。
面白かった。
人間界、あやふやでいいじゃないか、美事じゃないか……あやふやの妙味を堪能するのに最適の佳作だとわたしは思う。
ちなみに、遼太郎の作品のタイトル。
あれは……ズルイよ(わたしだけ?)。