栗栖ひよ子
沁みこむような、切なさ
初めてこの作品を読んだ時は、衝撃を受けました。
淡々と、ゆるゆると進んでいくような文章なのに、切なさがいつの間にか沁みてきていて、心がつめたくなって……。
やさしい罠のような作品だな、と思いました。
気付いた時にはもう、つめたい水が肺の中まで充満していて、苦しくて、痛いです。
無気力に、退廃的に生きているように見える主人公・ヒヨリ。
回想を挟みながら物語が進んで行くので、彼女の過去に何があったのか、期待と不安が入り交じったような気持ちで読み進めてしまいます。
先生と出会うことによって、ヒヨリの歪みや痛みが、だんだんと浮き彫りになってゆき、回想も核心に近付きます。
ヒヨリにも、先生にも、ケイ先輩にも、恋愛観で言ったら、なかなか完全に共感はできないかもしれません。
でも、どこか、人間として、「理解はできてしまう」部分があります。
その危うさが、バランスが、三人の人間的魅力を作り出しているのかもしれません。
哀を越えて、愛になるような結末は、最後に人の持つ強さを感じられて、とても感動しました。