東京新宿歌舞伎町。ホームレス少女・ゆきを拾ったレズビアン・祭の物語。
■ 1話
クリスマスの夜に私は少女を拾った。
「お先に失礼します」
私が会社の予定表に『クライアントと会議。直帰』と書いていると同僚が話しかけてきた。
「あ、四季さん、直帰? 今日飲み会があるけどどうする?」
「んー、仕事片付いたら考えるわ。場所はいつものとこ?」
「そう。んふふー、今日はクリスマスだもんね。誰かと待ち合わせ?」
「いたらいいね、その誰か」
「暇だったら飲み会に来てね。じゃあ」
「じゃあ」
私は鞄をぎゅっと肩に掛け、オフィスを出た。
ビルを一歩出ると冷たい風が頬にあたる。今年もホワイトクリスマスにはならなかったな、と考える。
誰かと待ち合わせか。誰もいないよね、そんな人。それはきっと私がレズビアンだからじゃない。仕事人間だからだ。
でも帰りに新宿二丁目へ寄ってバーにでも行こうか。いい人との出会いなんかなくても、バーのママと話せる。
三時間後。クライアントとの年内最後の打ち合わせを終えてシティホテルの喫茶店を出る。
クリスマス当日ということもあり、ホテルには次から次へと客室へと人が入っていった。
そんな日も私は仕事。もちろんクライアントとはクリスマスも仕事なんてねーと二人で苦笑い。でも彼女はいつもより綺麗に着飾っていた。この後、誰かと会うのだろう。プライベートで。
ふと映画が観たくなってTOHOシネマズ新宿へと向かう。こんな日は満席だろうか。
コンビニでホットゆずドリンクを買っていこうか……と思っていた時、私は少女に出会った。
少女はコンビニの前で両足を投げ出し、地べたにぼーっと座っていた。
少し服が汚れている。子供ホームレスだろうか。
私は少女に声をかけようか躊躇した。その時、ふと彼女が顔を上げる。
私の靴から膝から腰から胸へと視線を動かし、目が合う。
表情がない。真っ暗な大きな瞳。
なのにこの少女はなんて愛らしいのだろう。
私は生まれて初めて一目惚れをした。
「どうしたの? 寒くない?」
コートも羽織らず、少女はコンビニの前にいたのだ。この真冬の北風が冷たく吹く夜に。
「……寒い……?」
少女は寒いのか寒くないのか、わからないようだった。
「良かったらうちに来ない? 夕食を一緒に食べよう」
私は膝を曲げ、少女と同じ目線になり、彼女へ手を差し伸べた。
一瞬少女は考え、それからゆっくりと私に手を伸ばしてきた。
私は少女のがさがさになった手を取る。
「決まり。行こう」
クリスマスの夜に私は少女を拾った。