あたしはうさぎ 。
うん、前世はきっとうさぎだろう。
構ってもらえないと
さみしくて死んじゃう。
好きな人が見てくれないと泣いちゃう。
本当は誰よりも弱いうさぎ。
「たーかお君っ!」
2年生の校舎の廊下で高い声がとおる。
「はっ!はっ!はな先輩⁉︎‼︎」
少し挙動不審になりながらも
高尾君はあたしに近ずいてきた。
「はな先輩から話しかけてくれるなんて
俺、ちょー嬉しーっす!!」
照れ笑いしながら
大きな声で話すのは2年生の高尾直輝君。
誰が見ていても明らかに
はなの事が好きに違いない様子。
そんな事は
はなが一番よく知っていることだ。
はなが意地悪そうな微笑みで問う
「ねえ高尾君、
はながもし高尾君のこと好きって言ったら
はなと付き合う?」
「…えっ⁉︎」
驚く高尾
騒めく周り
「そんな!はな先輩が俺の事好きだったら
俺絶対付き合いますよ!!!」
高尾はそう言い切る
「じゃあ同じクラスの朋子ちゃんと
別れてくれる??」
くすぐるような声で高尾に聞いた
「…もちろんっす!!
はな先輩と付き合えるなら
俺今すぐ別れてきますっ!!
ちょっと待っててくださいっ!!!」
おもむろにケータイを出し
電話をかけ始める。
おそらく彼女の朋子へ連絡してるだろう、と
分かりつつ
不安げな顔を作り
高尾を見上げる。
はなの表情に気づいた高尾は
わざわざスピーカー音を出し話し始めた。
「もしもし朋子?今大丈夫?」
「うん!どーしたー?」
「俺さー好きな人出来たから別れて!」
「はぁ⁉︎誰よそれ⁉︎」
「はな先輩」
「…‼︎」
「はな先輩だよ、別れてくれるよな?」
「…もー好きにすれば‼︎‼︎」
ブツン!
あまりにも淡々と終わる別れ話に
廊下にいた2年生達も
驚きと不安を隠せない。
微笑みながら
憧れのはな先輩がこちらを見ている
「はな先輩!!
俺彼女と別れました!
はな先輩好きっす!!
付き合ってくださいっ」
その言葉に周りはきゃーきゃー響く中、
一人だけ冷静に言葉を並べる
「ん?あたし付き合うなんて
言ってないよ?
好きだとも言ってないし」
今さっきまでの甘い会話が嘘のようだ。
「…でも先輩
あたしが俺の事好きだったらって…」
急に弱気になる高尾
やっぱりね、とでも言いたそうな周り
「それは例え話だよ〜♪
あたし好きな人いないし」
はながとびっきりの笑顔で
高尾に返す
それを聞き
彼女を振ってしまった罪悪感と
公開告白をしてしまった恥ずかしさで
高尾は泣きそうな表情をした。
「でもね、高尾君。
はなの事欲しくて
抱きたいとか思うのなら
はなの事を本気にさせてよ?」
大人の色気と可愛らしい声、
サラサラのロングヘアーに
華奢な体。
そんな完璧ともいわれる先輩に
そんなことを言われたら
誰もが落ちるだろう…
「はな先輩!!
待っててください!!!
絶対好きにさせます!!!」
大勢いる中で
高尾はそう叫び
廊下を後にした。
3年生の教室
数学の先生が欠勤との事で
実習になった
「ねえねえー、はなー
今度は2年生の高尾君?とその彼女
別れさせたんだってー??」
「別れさせたなんて
人聞きの悪いな〜」
はなは少し頬を膨らませる。
この子は理沙。
小学校からの付き合いで
はなの良き理解者。
「ちょっとからかってみたら
別れるって言うから
びっくりしちゃったよ〜」
そんなことはない、
これも計算の内。
理沙含め、ここにいる生徒は
誰もが知っていることだ。
「朋子ちゃんって子
めっちゃ泣いてたらしいけど
でも、はな先輩だから
しょうがないとも言ってたんだってさー」
「…だよねー♪」
はなが自らそう言い
理沙を笑わせる
尾上はなは
小さい頃から本当によくモテる
モテることをきっかけに
どんなに調子をこいても
敵になる女子は
全くと言っていいほどいないのだ。
それだけ彼女には太刀打ちできない
ということを
みんな知っているのだ。
「もう、はななんか
小悪魔通り越して悪魔だよ!笑」
「はなは小悪魔だもーん♪」
もう3年生の生徒達は
はなの本性を知っているため
二人も毎日こんな調子で
話している。
「はあー、早く部活の時間にならないかなー。
授業なんかやってられないよ」
はながそう弱音をこぼす
「はなはほんっと
部活好きだよね〜。
よっ!吹奏楽部部長!!」
理沙が大きな声で
はなをからかう。
「ちょっとやめてよ〜、
教室では恥ずかしいよ〜」
午後の授業が終わり、
はなと理沙は音楽室へ向かう。
「はな先輩っ!!!」
後ろから呼び止められた。