これは、
ある小さな女の子の、
小さな
小さな
恋のはなし。
だんだん寒くなってきて、そろそろコートの季節だなぁとぼんやり考えていた帰りのバス。
揺られながら、バスの窓から見える秋模様の空を眺めていた。
ー今、笑顔で過ごしていますか?ー
ふと心のなかで、姿の見えないあの人に問いかけてみた。
返事はない。
ゆっくりと冷気に流されていく雲のように、静かに時間は流れていった。
二人が出会ったのはお互いが6歳の時。
とはいっても、小学校生活が始まって、同じ場所で過ごしていただけに過ぎず、話したことは一度もなかった。
毎年大きな学校行事を向かえ、
毎年のことなのに、
同じ感想で済ませられるようなものは1つもなかった。
全てが素敵な宝物だ。
入学したときに想像していた6年間はとても長くて、
本当に卒業する日が来るのかと思っていたくらいだったが、
悲しいほどに
あっという間に時間は過ぎていった。
そんな風にして、
入学から6年が経った
ある日の午後
目があった。
教室の入り口に寄りかかり、中の誰かが出てくるのを待っていたようだ。
……あ、斗真くんだ……
心のなかでそう思いながら
彼の顔を何気なく見ていた。
本当に何気なくだった。
あのとき、何故彼に視線が向いたのか今となってもわからない。
向こうが私の視線に気づいたのか、
こちらに目を向けたので
驚いて一瞬で目を背けてしまった。
…ああ、きっとこの先も話すことはない、遠い存在の人だろう……
当時は、そんな風に考えてしまうくらい
あの人は遠い存在だった。
斗真は、言えばクラスの人気者。
明るくて皆に優しくて、
男子女子関係なくいつもみんなの真ん中に立っていた。
他のクラスにもたくさん友達がいて
とても信頼されていた。
一方、友達づくりが苦手な私は、
浅く広くでしか関係を築けなかった。
クラスが離れたら終わる友情。
一年だけの友達ごっこはもはや特技であった。
斗真と私は全然違う。
私はあの人みたいに輝く存在にはなれない。
……なってみたい……
けれどそもそも信頼しあえる人間を作ることが苦手。
私が斗真のようになるなんて最初から無理な話だった。
だから
斗真が好きとか嫌いとかの感情の前に、
私と斗真との間にある見えない壁を
越えようとは思わなかった。
そんなこんなで日々は過ぎていき、中学校へ進学したのだが
新しいクラスで、
私は
斗真の斜め後ろに座っていた。
同じクラスになったのだった。
これが私の忘れられない恋の始まりである。