大いなる災厄により呪われたダルシュアン王家。その王女であるファルトゥナは、その呪われた血に潜む「もうひとりの自分」によって自らの友人を殺してしまう。
破滅する王家からひとり逃されたファルトゥナは、母の最期の願いである「行方不明の姉を探す」ため、五大陸を旅することとなった。
途中で出会ったアレキッド、セシリア、カノン達と、ひょんなことから旅を共にすることになったファルトゥナ。ときに激しく対立することもありながら、彼らは精一杯にファルトゥナを支え、ファルトゥナもまた、彼らをかけがえのない仲間と認めていくのだった――。

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ヴァンパイアを主題とした本格ダークファンタジーノベル。
硬派な文体と、複雑な人間関係、伏線が緻密に張り巡らされていることなどから、一つ一つの物事をちゃんと理解して読んでいく必要があるため、もしもあなたが「さらっと軽く読み飛ばせる小説」を探しているのならば不向きですよと申し上げたい。でも、もしもあなたがしっかりと噛みしめるように読んだならば、この作品は深く濃厚な味わいであなたを魅了することでしょう。
とりわけ、自分の中に潜んで絶えず身体を乗っ取ろうとする別人格――吸血鬼の血――に抗い続けるファルトゥナの姿、その内面で激しく揺れ動く心のさまに注目してほしいのです。人間と吸血鬼、王族と平民、アレンとキッド、抑圧と欲望、友情と恋――さまざまな物事の間で彼女は悩み、苦しみ、もがくように前に進み続けるのです。

ここから先は個人的な感想。
キッドかっこいい。私はずっと以前から断然キッド推し。いや、アレンの優しくそっと包むような愛もいいんだけど、キッドのぶっきらぼうで突き放されたかと思うと肝心なところで絶対助けに来てくれるとこなんてニクイじゃん。ファルトとの危険な恋の駆け引きもたまんないのです。よっ色男!
でも付き合うならセシィです(断言)。セシィ可愛いし度胸あるし行動力はピカイチだし、なんてったってファルトの素性を知りつつなお全面的に受け入れてくれてるあたり、もう泣けちゃうぐらい良い娘!カノンもまるっと受け入れるあたり、将来は絶対に肝っ玉母ちゃんになりそうよね。セシィの子どもになりたい!
それから、物語後半、ある出来事を境にしてファルトがめちゃめちゃ女っぽくなるあたりがドギマギしちゃいますよ。やだもう色っぽい!昨日までは気丈に振舞ってたのに、突然弱くなっちゃうのもまた人間らしい心の動きよね。ファルト頑張れ!

物語は大詰めに差し掛かっているようなんだけど、なんとなく、もうひと波乱ふた波乱ありそうな気がしております。これ以上ファルトを苦しめないで、と小声で呟いてみるけど、多分まだなんかあるんだろうなぁ。楽しみにしておりますー。