栗栖ひよ子

春風は、きっとあなたの近くにも
柔らかで、暖かな、まるで春風のような、綺麗な文章でした。

ただ、せっかく文体が柔らかいのに、主人公が終始説明口調なところに、堅さを感じてしまったので、少しもったいないかな、と感じました。

吉岡さんが、橋本くんの手が止まったのに気付き、声をかけるエピソードが、とても印象的で、吉岡さんの人となりがよく理解でき、とても素敵でした。

主人公が回想しているところから、実際の場面に移り変わるつなぎも違和感なく、素晴らしかったです。

日常のふとした瞬間の出来事だからこそ、キャラクターの性格を、何よりも雄弁に語るのだな、と感じました。

説明だけでなく、このような、橋本くんの、吉岡さんとのシーンをもう少し入れて欲しかったかな、という気がしました。

二人の関係性や、吉岡さんから見た橋本くんの印象なども、できれば知りたかったので……!


本当の自分を、こっそり見ていてくれる人が、いるかもしれない。

気付かないだけで、春風のような優しい出来事は、きっと転がっているんだよ――と、あたたかい気持ちにさせてくれる作品でした。

読後の余韻もよく、おすすめです!