うのたろう

「やばい」という感覚で「古い」
少々老人くさい表現だが、ワカモノコトバで「やばい」というのがある。
「すごくよい」の最上級の意味の言葉だ。

それはともかく。

この作品は「古い」。
もちろん、古くさいという意味ではない。

物語に流れる空気がどこかなつかしく、読み手をほっとさせて安心させるような、そんな雰囲気を醸しだしている。
ノスタルジーとはまた違った、心にうったえかけてくるそんな感覚だ。

作品はそれぞれの視点の一人称でパズルのように構成される。
主人公・倖菜、その彼氏・健人、中学時代の同級生・郁斗。三人の視点がシーンごとに変わっていく。
多少めまぐるしい感はあるが、三人称で統一するよりも心情を重視したというところだろうか。

また文章のレベルがかなり高い。
会話やしぐさのひとつひとつが「古」く、故に色っぽい。

個人的な好みは78頁。
この会話にはやられた。
決してめずらしい手法ではないが、距離のとりかたがひじょうにうまい。
この作品の色にぴたりとはまっている。

まだまだ書き足りないところはあるが。
この感覚はぜひ読んでみて、それぞれの目でたしかめてほしい。