三年前、九条啓介は恋人だった香城聡美を殺した。彼は、愛するほどに殺意を抱いてしまうある種の病を抱えていたのである。本人は以前からそのことに気づいており、実行に移すまいと理性で衝動を抑えこんできた。聡美を殺してしまった後で我に返り、激しい自責の念に苛まれはじめる。
啓介の裁判で弁護士を務めたのは、彼より二つ年下の敏腕・井上賢であった。賢は啓介の病に関する説明に少しの矛盾を感じながらも、職務に全力を尽くし、無罪を勝ち取ることとなった。
賢は、その後の啓介の生活を案じ、敢えて新たな恋をするように勧めた。それは賢が感じた矛盾への解を探すための検証でもあった。
賢が啓介に引き合わせたのは、賢の大学時代の恋人であった早瀬佳織だった。彼女は、殺人を犯したとは思えない啓介の穏やかな物腰と清潔感に好意を抱き、二人が交際を始めたのもつかの間のことだった。
しかし、やがて彼女は啓介が本気で自分を愛してくれているのか、不安を覚え始めた。困り果てて賢に相談すると、賢は佳織に「僕と付き合ってくれ」と話す。それは賢の検証の結論を得るための作戦だった――。