~プロローグ~
「もう少し早く言ってくれたら良かったのに。」
一度目に私を振った彼の言葉だ。
バイト先の社員だった彼を好きになったのは高校三年の春、
愛車はスカイライン、
ふわふわなパーマをかけていて、
マルボロの赤箱を吸っていた大人の彼にのめり込んでいった。
彼の名前は碧《あお》
バイト仲間の誰よりも可愛がってくれていた
仕事終わりや休みの日、
時間が合えばドライブ行ったり、買い物したりして会っていた
ふと触れる手や体に鼓動がもたなくて、気持ちも大きくなっていったっけ
―————―時はクリスマスシーズン。当日は”雪”の予報
当日はとても寒かったのを覚えてる
食事に誘ってくれたから、両思いなんか期待して....
ちょっといいところで食事して夜景を見にドライブへ
外泊許可ももらって準備万端
勝負下着も思い切って着けてみた
”雪、降って来たよ”
海岸線に車を停め、二人外に出れば海一面に落ちる雪
碧は小さな紙袋を持ってそばに寄って来た
「これ、クリスマスプレゼント!」
紙袋はハイブランド。中を見ると綺麗なジュエリーケース
「開けてみて♪」
くれた方なのに、ワクワクしちゃって
「雪で濡れてしまうから嫌」って言った私に、笑いながら
「大丈夫、溶けないから」と言ったね
「ありがとう」
ブレスレットが雪の様にキラキラと揺らめいていた
嬉しかったのに淋しくて、
”.....指輪じゃないんだ” って思ったんだ
なんでだろうね、どこか淋しかった。
そんな気持ちを振り切るように胸の中に飛び込んだ
「大好き、私と付き合って。」って言ったと思う
じっと見つめる私の顔をじっと見てる、碧
思い切って目を閉じた
キスを待った
目を開けたら、きっと私はお姫様
・・・・・
........重ならない唇。
鼓動だけが時を刻んでいく地獄の時間
私を抱き止めた腕はそのまま
こんなに近くにいるのに....
動いた唇は残酷な言葉を声にしたんだ
「彼女、出来たよ」
....嗚呼、だから昨日じゃなく、今日《・・》なんだ。
....嗚呼、だから朝までメールの返信がなかったんだね。
体の力が抜けた
「胸の中で聞く言葉じゃないね(笑)」
昨日彼女を抱いたであろうその腕から離れた
彼の手は私を引き寄せ、
「ね、俺にクリスマスプレゼントは?」
と屈託なく言った
......悲しみの最中なのに容赦ないの
「伊織?俺にはー?プレゼント、ちょうだい♡」
そんな綺麗な顔で見つめないでよ
勘違いしちゃうじゃんか。
いつもと変わらない態度に感情が揺さぶられる。
あのさ、
「もう少し早ければ?ブレスレットって何?今後の私達の関係は?碧にとって私って?」
一気に吐き捨てた。
「腕を.....離して。」
キスできそうな距離でキスをしない律儀な男。
私の顔を見つめたまま目線を外さないズルい男。
「....お前の気持ちがわかっていたら彼女はお前だったよ。ブレスレットならずっとしていられるだろ?
今後も今までと変わらない。ダメなの?伊織は、いつまでも友達以上恋人以上なの」
優しい言い方、でも腑に落ちない。
「腕.....」と言うと
「あ、悪い。」と、言って離れた。
「....俺にとってのお前は、すごく大切で。それが恋人でも、友達でも。だけど、彼女になったら別れがあるし...このままがいいかなって。それが俺の素直な気持ちだよ。」
手を揺らす手首にはもらったブレスレットと同じもの
嬉しいはずのお揃いなのに胸が苦しい
「結局、返事は?」
「ん?好き、だよ。」
でも、彼女になれない、ワタシ。
「ただの友達じゃないんだ、彼女でもいいし友達で一番でも、いい。」
何が、いい。なの?
諦めきれなくて、期待しちゃうじゃない。
「.....全っ....然わからない。」
頭に雪が積もり始めた。しんしんと降る雪が真っ暗な海に吸い込まれていく。
「彼女でいいなら彼女がいい。」
「付き合ったばかりなんだ、無理言うなよ。」
体の力が抜けた。
無言で歩き始める。
「え?帰るの?おい、待てって!!」
「一人で帰る、碧の返事はわかったから。」
・・・・・・歩みを再開する。
「何で.....、こんな事で終わりになっちゃうのかよ!」
・・・・腕を掴まれたが後ろは振り返らなかった。
「こんな事?」
涙は、氷の結晶となって頬にはり付いている。
「俺、年末で仕事辞めるんだ!」
・・・・・・自然と歩みが止まった。
「会社で会う事がなくなって、このままだったら連絡取れなくなる。どうすんだよ!?」
腕を掴む手に力は入っているけど泣きそうだ。
「私が泣きたいよ、碧....。大好きだから。彼女います、でも友達でいようは、無理なの。ごめんね。」
「伊織....っ!」
「......プレゼントはハンドルに掛けてある、今までありがとね。餞別になっちゃったけど。バイバイ、碧。」
キラキラと空から降り注いでいる雪の中、一心不乱に歩いた。
体に雪が積もり始める。
もう、碧は追いかけては来なかった。
オトナLOVE
- #二人で振り返る今
- #18歳の私
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