「そして消えゆく君の声」更新しました。
いつも反応いただきありがとうございます。毎回同じ言葉になってしまうのですが本当に嬉しいし励まされます。
以下、別サイトにて掲載しました小話(本当に短い…)です。本編「黒崎要という人間」の内容に触れています。
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何か柔らかいものを手でこねて、指の腹で少しずつ成形したような子だった。頬の線は甘い曲線を帯びていて、爪が丸くて、足が小さい。
内向的な割に脳髄と表情筋が直結しているように感情豊かで、ちょっとつつく度に頬を染めたり青ざめたりと忙しく振る舞う姿は、小型の齧歯類を連想させた。
なるほどねえ、と納得する。こういうのが好みなのか、あいつ。まあ確かに、あの水も漏らさぬ鉄壁の要塞……と見せかけてぶん殴ったら藁の壁が現れそうなやつには、素朴な善意こそが救いになるのかもしれない。笑った顔を見たこともない「弟」が、緊張にこわばる顔でスマホを睨んでいたのを思い出しながら汗をかいたグラスに口を寄せる。
「きみにしてあげられることはない」
そう釘を刺したのは、この要領の悪そうな子が焦って転けないように、というよりはそれによってこちらに被害が及ばないようにという打算によるものだったけど、だったらもっと効果的な手段はあったわけで、つまり俺はどこかで期待していたのだろう。彼女が困難を跳ね返してあいつの心に風穴をあけることを。何年も晴れることのない灰色の曇天に光が差すことを。
(……俺も「お兄ちゃん」になったってことかね)
自嘲めいた笑いは、どん底みたいな光量のなかでは見えなかっただろう。