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まめ

感じるままに、心のままに生きる事を大切にしたい。という人生を歩んで来たが故、電子機器の取扱説明書を読むのが苦手になりました。
どうも、ゆとり教育の申し子、まめです。

……

高校生の時に「野球バカと単純なアタシ」という作品を描いていました。

第一回携帯小説大賞に応募し有難いことに選考を進むことができ、たくさんの方々に読んでいただきました。
あの頃コメントをくださった方々にまた出会うことは出来…

東京。

何もない田舎で生まれて、畑の中を駆け回るようにして育った。
「何もない。何もない」と何度も口にしながら。

そうして育ってみんな町を出るんだ。

幼馴染の親友はミュージシャンになった。もう歌さえ歌っていれば働かなくても暮らしていける。

小学生の頃に恋をしていた男の子はスタイリストになって、今では雑誌でも名前を見かける。

大柄で、足が遅いなんて言われていた男の子は全国的なラグビー選手になって、
割と問題児だった男の子は、大企業の新規プロダクトの開発を牽引する技術者になって。
ずっと一緒に絵を描いていた女の子達は東京藝大や女子美に進み、好きなことを仕事にしている。

私は?

腐ってたけど一応名のある大手企業に就職して、都内で自由に暮らしてた。
好きな服をきて、好きなものを食べて。夜中に遊びに出て朝方家につく。いろんな人と一期一会に出会っては別れて。

親友がまだ知名度の上がる前から、よくライブには足を運んでいた。
元々歌が上手だった彼女だったけれど、人の心に響く歌を作り出すようになっていた。
仕事で失敗したり、辛いことがあった後なんかは「みんな頑張ってるんだ」なんて力を貰ってまた立ち上がっていた。

彼女からアー写撮影を頼まれて、ひと夏を丸ごと詰め込んでひとつのアルバムを一緒に作ったりなんてした。
のちにそのアルバムの曲が映画のエンディングに使用される事になった関係で、サントラの最後に収録される事と引き換えにアルバムの販売は終了した。まるで夏が終わりを告げたような感覚だった。
試写会のスクリーンから彼女の歌声を聞いた時、涙が出た。

もっと、もっと、これからも先を進む彼女を心から応援していた。


結局、私は。
結婚の為に「何もない」田舎に帰ってきてしまって「何もない、何もない」なんて言いながら明日保育園で使う息子のオムツに名前を書いている。

東京へ出たって何者にもなれず、別に何者かになる気もなかったけれど、ただただ平凡の中に埋もれる日々を過ごしている。

ふとさっき、Instagramからライブ配信の通知がきて、携帯を手にして配信のページへ飛んだ。

「一曲だけだけど歌います」

別に、この田舎を飛び出して何かを成したわけではなかったけれど。むしろ何もしてなかったけれど。ああ、なんて幸せだったんだろう。
今だって何一つ不満もないくらい満ち足りているけれど。今ある幸せと、あの時の幸せはまったくの別物なんだ。もう手に入らない。

短いライブ配信を聴き終えて、なんだか一人暮らしの自由だった日々を思い出して切なくなって。その切なさが実に心地良かった。

みんな「何もない、何もない」なんて言いながら、この何もない田舎を愛していることを知っているから。今日も、「私も頑張らなくちゃ」と思うんだ。

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