隣のキミSS
高校一年の秋
廊下を歩いていると、視界の端にキラリと光る何かを見つけた。
いつもならスルー確定案件なのだが、この時の俺は警察犬並みの嗅覚をきかせ、落ちているモノを何の気無しに拾う。
キャラクターもののボールペン。女子が好んで使いそうなデザインに一気に興味が失う。
しかし、隅の方に小さく刻まれている文字に極限まで目を見開かせた。
『S・M』
まさか、
S(須藤)・M(美春)だったりしない?
俺の中の第六感が告げている。
多分と言うか、絶対にそうだ。
急に掌に収まるそれがどんな宝石よりも価値があるモノに見えてきた。
可愛いな。へえ•••須藤さんマイ○ロ好きなんだ。女の子らしくて良いな。
委員会の時に少しだけ覗き見した文字も小さくてクネクネしてて可愛かった。筆跡すら愛しい。
彼女のクラスは把握済み。
落とし物を届けるお礼にデートを強請っても良いだろうか。
断られたらどうしよう。物に執着が無さそうだから、十分に有り得る。
いや、押しに弱い性格と言うのも知っている。
連絡先はその時に交換しよう。
「(いや•••待てよ)」
直ぐに返しちゃうのは勿体なくないか?
まずは十分に彼女の私物を堪能して——
「陸、こんなとこ突っ立ってなにしてんの?」
思考が暴走し出した頃、背後から聞き馴染み深い声が掛けられる。
振り返ると、長い睫毛の奥にある蜂蜜色の瞳が、不思議そうな色を湛えて俺を見つめていた。
真白だ。
「別に」
「出た、エリカ様〜、てかそれ•••」
「は?」
「なーんだ、お前が持ってたのかよ〜」
俺の手中から一瞬にして消えるそれ。眉根をきつく寄せて、親の仇のような眼で陽気な友人を睨み付ける。
と、まさかの発言が落とされた。
「探してたんだよね。隣のクラスの女がくれたんだけど、結構使い勝手良くてさ〜」
「•••」
「ほら、イニシャルまで入ってんの。店のサービスでやってくれたんだって」
あははと軽快に笑う男に、意識が遠ざかりそうな思いだった。
S(佐原)・M(真白)
現実は、いつだって優しくない。
「真白」
「なーに?」
「気色悪い」
「辛辣!」
「男がキャラもの使うなよ。紛らわしい」
「何の話しだよ!?」
ぎゃーぎゃー煩い存在を無視して、脳内で未来のお嫁さんの可愛い笑顔を再生する。
今日も今日とて俺はひとりの少女への片想いを拗らせていた。
おわり
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