彼を初めて見た時、鳥肌が立った。
行き交う人たちが、携帯から目を離し、足を止め、彼だけを見つめる。
絶対この世界のトップになる!
私の頭の中に浮かんだ未来。
それが彼の幸せだと、私の幸せだと1ミリも疑わなかった私たちは…とても若かった。
数年で有名人になった彼とは距離が生まれた。
仕方がないことだと理解しながらも、
対等でなくなった関係に苦しんだ。
その苦しみが思い出せないくらい、
今の方がよっぽど耐え難いものに変わったのは
彼が亡くなったからだ。
彼の苦しみを理解せず、
独りよがりの思いにつぶれ離した手が、
こんなにも儚いものだったのだと知った。
…時間が経ち、その若さもだんだんと消えていった頃、私の前に“あの頃の彼”が現れた。
その目は憎しみに溢れ、強く握りしめた手は震えていた。
再び始まる“彼”との日々に、
あの頃の苦い思いと若さが色濃く蘇る。
これは復讐なのか。それとも愛なのか。
重なったとき真実を知る。