「ねえ、あの2人」
「男同士だよね、手を繋いでる」
「やだぁ、腰に手を回して。体も密着してるし」
「完全にあれよね」
だが慣れたつもりでも湊音だけは、傷つく。李仁は全く気にしていない。そんなこと言う人の方を見てニコッと微笑む余裕がある。
「また、李仁ったら」
「いいじゃん、見せつけてやりましょうよ」
ゲイである李仁は湊音以上に何回、何十回、何百回も自身の仕草や言葉で判断されて嫌な思いしてるはずなのだが。
湊音は李仁と出会ってから自分がバイセクシャルとわかったものの、李仁ほど堂々としていられない。周りには公言はしていて理解をしてもらっているつもりだが。
「普通に生活してるんだから」
と、背の高い李仁は堂々と自分より背の低い湊音の頭を撫でてキスをする。きゃーっと声が聞こえるが、さらに増して濃くなるキス。舌も混じる。湊音は突き放すと、李仁は首を傾げて笑う。
公共の場でキスをするのは湊音は恥ずかしく感じる。するのは手繋ぎまでにしてほしいと。
「いいじゃん、キスくらい」
「キスくらい……って、普通のカップルでさえも公共の場ではしないよ」
「あら、普通ってなぁに? 普通のカップルじゃないの、私たち」
湊音は高校教師。自分の学校の生徒に見られたら……。そういう建前もあって恥じらいもある。
「さぁて。おうちに帰りましょう」
「ああ、そうしよう」
湊音は足早に歩き始めると李仁は後ろから追いついて腕を絡ませる。
彼らは夫夫(ふうふ)である。男性同士の結婚。パートナー協定を結び二人は家族になった。そして今日も同じ家に帰る。
これからの話はその二人が結ばれるまでの話です。