五百年生きているヴァンパイア・クローロンと、消えてしまいたかった少女・イェシル。
その少女は、ひとりだった。
その少女は、美しかった。
その少女の心は、冷たかった。
その少女の心は、叫んでいた。
手を伸ばすことを知らなかった少女は、ぎゅっと両の腕で自身を強く抱きしめていた。
毎日、月に祈っていた。早く其方に連れて行ってください、と。
自身の心に誰も触れさせなかった少女は、小さな手では抱えきれないほどの虚しさを抱えたまま生きていた。
少女に寄り添ってくれたのは、いつも夜空に輝く月だけだった。