【聡志！オレ、イオス役受かったよ！】
その連絡に、中本聡志は卒倒しそうだった。
イオス役。
それは、女性に大人気の恋愛シュミレーションゲームの隠し攻略キャラである、エルフ族の国王の役名だ。そのイオス役に、親友の東が新人声優として抜擢された。けれど、聡志は友の幸運を喜んでやる事は一切出来なかった。何故なら、聡志も同じイオス役でオーディションを受けていたからだ。
聡志はその夜、酒をしこたま飲み干し、挙句、近所の桟橋から勢いよく川へと飛び込んだ。
次に目を覚ました時、聡志は何故か、そのゲームの世界に居た。
そして、ひょんな事から、部屋から引きこもって一切外に出て来ない、イオスの部屋守兵となってしまう。「聞いていた設定と違う！」と聡志は内心キレつつ、引きこもるイオスの声を、どうしても聴いてみたいという欲に駆られた。
その日から、聡志は引きこもるイオスの部屋の扉の前で、童話や神話、様々な物語を一人で演じ、部屋の向こうのイオスに話して聞かせるようになる。
これは、弱虫で泣き虫の引きこもりの王子様が、一人のしがない声優志望の男によってゲームの設定通りの偉大な賢王になるまでの物語である。