造花のスズランと、君の誕生日と、赤い屋根の家。両親をなくした槇山はとある日公園で出会った前田と造花のスズランをきっかけに仲良くなる。しかし激しい豪雨の日、公園で見つけた前田はどこが様子がおかしくて、前田の持っているスズランには根が生えていた。

ㅤこんな昼ふと考える。何が君のためになったのかって、日の落ちていない空で月を探しながら思うのよ。

「ねえ、暑い」

「暑いね」

ㅤ透き通った海を目前に、肩をぶつけ合って並んで座る。君はなにを思っているんだろうと、そう考える前に私が直射日光に耐えられなくて嘆いた。私は暑いって思っているよ。

ㅤもしかしたら君も同じことを感じていて、日光が肌をじりじり焼きつけてくる熱が鬱陶しいと思っていると期待してみたけれど、隣で海を眺めるその横顔に、暑いのあの字もない。

ㅤむしろ清々しいとさえ感じられる、暑さなど忘れて開放感を満喫しているような表情だった。ああ、暑いとか日に焼けるとか子供っぽいことしか考えてないのは私だけだ。

別にいいんだ、これからの苦労に比べたらこんなのどうってこともない。

ㅤまだ私が子供だった頃に君と出会った。君はもうすっかり大人だったというのに、私はまだ近所の小学生の子と変わらぬ子供だった。ふと現れてふとした瞬間に消える君を、気づいたら好きだった。子供の私には不可抗力だと思う。

「それはすごい大げさな言い方だね」

ㅤそう言って君が笑った。笑い事なんかじゃあないぞ。これから私がどう生きて行けば良いか一緒に考えてちょうだいよ。

「僕を忘れて」

ㅤ無理を言わないで、そんな冗談が面白いと思って言っているの。ぜんぜん笑えないよ。

「僕が数を言うから、ゼロになったら君は僕のことを忘れてよ」

ㅤ有無を言わさず早々と君は立ち上がって深く息を吸った。一度すべてを吐いて、また息を大きく吸う。深呼吸だ。手と息が震えていて、何かしらの恐怖が君にもあると知った。ねえ、ちょっとはやいんじゃないの。まだ話したいことがとてもあるというのに。