きれいな朝。そこには当たり前にある青空がどこを見渡しても広がっている。鳥が鳴いて風が吹いて木が揺れる。いつも見ている風景なのにどこか違う。当たり前は当たり前ではない。ずっとなんてない。私は16年生きてきて初めてそれを実感した。
ダリア
「おはよー」
「おはよ、どうしたん体調悪いの?」
「なんか内臓が痛いんだよね笑」
「なにそれ大丈夫?」
「まあよくあることだしすぐ治るでしょ!」
「よくあっちゃだめでしょ。あんまり無理しないでね?」
「はーい」
毎日朝一番に会話するのは七瀬音夢。音夢は小学校からずっと一緒でいわゆる幼なじみってやつだ。音夢のことならなんでも知ってるし、音夢も私のことはなんでも知っている。音夢は人一倍元気で明るくクラスではムードメーカーのような存在。そんないつもはうるさいくらい元気な音夢が今日は私より静かだった。でも心配させないくらいの笑顔で話してたからちょっと変なもの食べたのかなくらいの軽い気持ちでいた。私は自分の席に座ってホームルームが始まるのを待った。
階段を走りながら教室に駆け込んでくる生徒。この景色を何回、目にしてきただろう。見ても見飽きないこの景色はあと1年で終わる。そんなことを考えながら廊下を眺めていると、先生が大荷物を持って教室に入ってきた。
「七瀬、ちょっと手伝ってくれー」
「えー、なんでまた私なの?」
「いつもはもちろん!って言って手伝ってくれるのに、具合でも悪いのか?」
「もー、しょうがないなー」
音夢は先生の荷物を受け取って後ろの棚に置いた。音夢は先生のお気に入りで何かとこき使われていて、それを音夢は満更でもない様子で引き受けている。私は2人のやりとりが好きで小さく微笑みながら見守っていた。
「涼ー!ちょっと来て!」
私は音夢に呼ばれて席を立った。音夢の所に行くとなにか珍しいものを見つけたらしく、手をグーにしてした。
「どうした?」
「見て!これすごくない?」
音夢の手の中にはキラキラと輝いている小さな石があった。その石はとてもきれいで教室の中にあるのが不思議なくらいだった。しばらくの間光っている石を見ていると先生がこちらに来た。
「2人でなにしてるんだ?」
「なんかね、光ってるのがあったから拾ったんだけど、これなんだと思う?」
「おお、なんでこんなに光ってるんだろ。これは石のようだが、普通の石ではないように見えるな。」
音夢は首を傾げて先生と不思議そうに石を見ていた。私は見たことのない光っている石の正体が知りたくなった。
「先生、これ家に持ち帰ってもいいですか?」
「それは構わないが、桜木はこういうのに興味があるのか?」
「ちょっと気になったので、」
「そうか。この石の正体が分かったら是非おしえてくれ。」
「分かりました。」
先生から光っている石を受け取ると、制服のポケットに入れた。
ホームルームの開始を合図するチャイムが鳴って教室が静かになった。私はこの静かな教室が大好きだ。もちろん、音夢と一緒にいる賑やかな時間も好きだけどあれが永遠に続くのは想像したくない。静かな教室に先生の号令の声が響いて、一斉にイスを引く。私は周りに合わせながら小さく礼をした。小学生なら大きな声で元気に挨拶するだろうけど、高校生になると声を出して挨拶をすることがなくなるという謎の現象はどの世代でも共通することだろう。
そんなことを考えながら先生の話を聞かずにぼーっとしていると机が少し揺れたような気がした。その瞬間に大きな地震が来て教室の窓がガダガダと音を鳴らしながら揺れている。
「地震だ!机にもぐって!」
「ピンポンパンポーン ただいま大きな地震が発生しました。揺れが収まるまで教室で静かに待機してください。担任の先生は教室の窓とドアを開け、避難の準備をしてください。」
校内放送が流れ、教室中はパニックの声に包まれた。ここ最近地震がくることは多かったけどこんなに大きな地震は初めてだった。私は机の下に身を丸めて「大丈夫」と心の中で唱えた。
「ピンポンパンポーン 先程の地震の揺れが落ち着いたので速やかに校庭に避難してください。」
揺れが収まって避難の合図をする放送が流れた。先生は静かに避難するようにと指示して、私は音夢と一緒に校庭に避難した。校庭の真ん中には全校生徒が集まってこわばった顔をしながら整列していた。校長先生の話を聞いてから校舎に危険がないことが確認されて教室に戻った。
「涼〜怖かったよ〜」
「最近地震多いから怖いよね」
「そういえば、朝の石持ち帰ってどうするの?」
「家でちょっと調べてみようかなって」
「何かわかるかなー」
「んー、どうだろうね」
朝見た光っている石が頭から離れないのは私だけではないみたいだ。私も音夢も光る石のことを考えながら授業を受けた。そんなこんなで午前の授業が終わって
昼休みの時間になった。高校生のお昼と言ったら屋上で食べたり教室で机を向かい合わせて食べたりするんだろうけど、私たちはまだ一度もできていない。私たちはいつも自分の席で黙食している。廊下は先生が見回りしていて話したくても話せない。こんなことがいつまで続くのだろうか。
20分間の黙食が終わって15分間の自由時間になった。
「音夢、体調は良くなった?」
「あ!そんなの忘れてた!」
「もー心配した私がばかみたいじゃん」
「ごめんごめん笑」
音夢はご飯を食べたら元気になったようで安心した。午後の授業も終わっていつもの道を歩いて家に向かう。学校から歩いて行けるくらいの距離で周りは田んぼや畑が広がっているだけのつまらない道だ。だから家に帰るまでの20分間は退屈にならないように音楽を聴いている。音楽を聴いているといつもより早く家に着くように思えて、気づけば家に着いている。私は自分の部屋に入ってふと石の存在を思い出した。制服のポケットから石を取り出し、私は思わず二度見をした。朝光っていたはずの石が光を出さずにそこら辺にあるような普通の石に変わっていた。とりあえず音夢に報告しないと、と思って電話をかけた。
「もしもし音夢?今大丈夫?」
「大丈夫だよー。どうしたの?」
「朝光ってた石が光ってないの」
「え?どういうこと?」
「朝ポケットに入れた時は光ってたのに、さっき見たら光ってない普通の石みたいになってて」
「えぇなんでぇ」
音夢は少し悲しそうに言った。私もなぜ光がなくなったのか分からない。とりあえず調べてみると言って電話を切った。調べてみるとは言ったものの専門的なことは何もわからず、インターネットで調べても光る石なんて一つも出てこない。光っていたのは偶然に太陽の光が石に当たって光っているように見えただけだったのかもしれない。そう思うと石の正体を知りたいと思う気持ちがだんだん薄れてきてしまった。私はただの石を机の上に置いてご飯を食べにリビングに降りた。そして長い一日を終えた。本当は終えてはいけなかったのに―
キョウチクトウ
時計を見るとまだ6時を過ぎたばかりだった。いつもより早く目が覚めたから少し眠気は残っているが二度寝しないように体を無理やり起こした。スマホを開くと音夢から通知が来ていた。それは20件を超えていて、時間は0時を過ぎていた。こんな遅くにどうしたんだろうと思って電話をかけた。まだ朝が早くて起きていないのか電話には出なかった。私はいつも通りに学校の準備をしようと机に積まれた教科書をカバンの中にしまおうとしたとき、昨日の石が光を放っていた。それはまるで何かを訴えているように強く明るく光っていた。
いつもより早足で学校に向かい、1番に教室に入った。スマホを取り出して音夢にもう一度電話をかけた。しかし音夢は電話に出なかった。いつもこの時間なら学校に向かっている頃だし出ないなんて珍しいなと思った。スマホを閉じたときポケットからでもわかるくらい石が光っていた。それを見た瞬間、点と点が繋がったように思えて突然怖くなった。深夜に来たたくさんの通知、応答がない電話、音夢の心配をする度に光る石。音夢に何かあったんじゃないかと思い、教室を飛び出した。人が集まってきた廊下を駆け抜け、音夢の家に全速力で向かう。音夢に一体何があったのか。走っている間も怖くて怖くて仕方がなかった。音夢の家の前に着くと音夢の部屋のカーテンは閉まったままだった。インターホンを押して出てきたのは目が赤く腫れ上がった音夢のお母さんだった。
「あ、涼ちゃん。」
「お母さん、音夢は!」
「昨日の夜から見当たらないの。夜ご飯を食べた時はいたんだけど、寝る前に部屋に行ったらいなくて。一晩中探しても見つからないし電話をかけても出なくて。」
「やっぱりそうでしたか。とりあえず音夢が行きそうなところ探してみます。」
「私ももう一度探してみるわ。」
案の定、音夢になにかが起こっていた。私はポケットに入った石を手にした時、何かに導かれたように来た道と反対の方向に向かった。このまま音夢に会えなかったらどうしよう。考えてはいけないことまで頭の中に浮かんで私の不安と恐怖は増していくばかりだった。このとき握りしめていた石は学校で見た光よりも強く光っていた。
キンセンカ
「音夢ー!どこにいるの!」
気づけば夕焼けが出ていた。どこを探しても音夢は見つからない。音夢のお母さんからの連絡もないから多分見つかってないのだろう。私は音夢に電話をかけた。
「プルルル プルルル ! 音夢?」
「もしもし、警察のものです。七瀬音夢さんのお知り合いですか?」
「警察…?音夢に何があったんですか!」
「音夢さんのお友達ですか、今音夢さんの保護者様を探しているんですけどご連絡取れますか?」
「え、あ、はい…。音夢はどうしたんですか!」
「詳しいことは警察署でお話させていただきます。音夢さんの保護者様と警察署に来ていただけますか?」
「はい、向かいます…。」
音夢の電話に出たのは警察だった。私は警察が出たことにびっくりして音夢に何があったのかを聞いたが何も教えてくれなかった。頭の中がごちゃごちゃに混ざって何が何だかわからなくなっている。とりあえず音夢のお母さんに連絡して早く警察署に行かないと。
「プルルル プルルル もしもし、さっき音夢に電話をかけたら警察の人が出て、お母さんを探しているみたいでした。一緒に警察署に来てって。」
「警察…?わかったわ。涼ちゃんありがとう。」
音夢のお母さんは疲れ果て、かすれた声で返事をした。私は急いで警察署に向かった。
「七瀬音夢の母です。音夢は!音夢はどこ行ったんですか!」
「音夢さんは総合病院にいます。詳細は中に入って説明するのでこちらにどうぞ。お友達の方も一緒にとうぞ。」
警察の人に案内されて震える足を無理やり動かして進んだ。病院にいると知った今でも頭の中はごちゃごちゃのまま。音夢に何があったのか、怖くて不安で今にも倒れてしまいそうになりながら警察の人の話を聞いていた。
「七瀬音夢さんは昨日の深夜2時に山のふもとで発見されました。地元の方が警察署に電話をしてくださって、その後に状態を確認するため病院に搬送させていただきました。意識はあって今のところ体に異常はありません。」
「そうなんですね。無事でよかった。」
「地元の方に聞き込みなどを進めているのですが、ここ最近音夢さんに変わったことはありませんでしたか?」
「変わったこと… 家ではいつも通りだったと思います。ご飯もちゃんと食べてたし。涼ちゃんはなんかある?学校でのこととか。」
「あの日は、朝から体調が悪そうでした。内臓が痛いとか… でもお昼ご飯を食べたら元気になってたので、」
「内臓ですか、一応病院の方に検査をお願いしておきます。他には?」
「実は音夢と連絡が取れなくなった前日の夜中に通知がたくさん来てたんです。遅い時間で私は寝てたし、暇な時はよく電話をかけてくるからその通知も暇だったのかなと思って特に気にはしてなかった。でもいつも学校に来る時間になっても来ないし、電話をかけても出ないから何かあったんじゃないかって思って音夢の家に行ったらいなくなったって。あの通知がsosだってすぐに気づいてたら。」
「涼ちゃんは悪くないわ。大丈夫。」
「その通知は何時頃ですか?」
「確か0時過ぎだったと思います。」
「他に変わったことはなかったですか?」
「いし、」
「石?」
「通知がたくさん来た日の朝に音夢が学校で光る石を見つけたんです。でも光る時と光らない時があるみたいで、」
「石が光ったんですか?光る石なんて存在しないですよね、?本当にそれは石ですか?」
そう言われてポケットの中にある石を取り出して机に置いた。
「光ってない時に見るとただの石なんです。この石は私が音夢の心配をしている時とか音夢からの通知を知った時とかに光ってたんです。この石が光るのは音夢に何かあった時。この石が教えてくれました。」
「そうですか。本人に確認してみないと分かりませんが、今日は面会禁止なのでしばらくは警察署の方で経過を見たいと思います。後日連絡しますので今日はこの辺で。ご協力ありがとうございました。気をつけてお帰りください。」
警察署から出て私は音夢のお母さんと一緒にお話をすることにした。音夢の家に着いて、お邪魔します。といつもより小さな声で言った。
「ごめんね、お茶しかないんだけど。」
「ありがとうございます。」
「一日ありがとうね。疲れたでしょう。」
「私は大丈夫です。お母さんこそ大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。何でこんなことになっちゃったのかね。」
「音夢は何を伝えたかったのかな。」
「まだ何も分からないけど早く戻ってきてくれることを祈るしかないわね。」
「面会ができるようになったら一緒に行きましょう。」
「そうね。」
「今日はもう遅いので帰ります。お邪魔しました。」
「気をつけてね。」
家に向かって歩く。ひたすら続く長い道を、機械で動かされているかのように歩幅を変えずにゆっくりと。早く音夢に会いたい。今はただそれだけが頭の中をいっぱいにしていた。
紫のヒヤシンス
「七瀬音夢の母です。病室は、」
「少々お待ちください。」
あれから2週間後、警察署から面会の承諾が出て私は音夢のお母さんと一緒に病院に行った。
「七瀬さんの病室は5階の913号室になります。」
「ありがとうございます。」
受付の隣にあるエレベーターに乗って5階に向かった。音夢がいる913号室に行くと音夢のお母さんは深呼吸していた。
「大丈夫ですよ、お母さん。行きましょう。」
「えぇ、そうね。」
ゆっくりドアを開けて中に入った。
「音夢…?」
そこにはいつもと変わらない音夢がいた。意識はあるもののまだ目は開けていないらしく静かに眠っていた。音夢の顔を見るのはいつぶりだろう。音夢と出会ってから今まで、長期休暇になっても外出自粛要請が出ても毎日のように会っていた。隣にいることが当たり前になっていて、隣にいない日はいつもの自分でないように感じる。連絡が取れなくなったあの日から何をしても楽しく感じられなくて、気づけば一日が終わっているような生活だった。そのくらい音夢は私にとってなくてはならない存在で、これからもずっと一緒にいたいと思う人だ。
「音夢、久しぶり。生きててよかった…」
私は小さな声でそう言った。音夢がいない世界なんて考えられない。考えたくもない。私はそう思いながら音夢の手を優しく握った。私の手に包まれた音夢の手は温かかった。その温かさを感じながらいつの間にか眠りについていた。
手になにか優しい衝撃があることに気づいて私は目が覚めた。
「お母さん!音夢の手が動きました!」
「音夢…音夢!」
音夢はお母さんの声に気づいたのか、目をゆっくりと開けて天井を眺めていた。そのあと音夢はお母さんと目を合わせて笑顔を見せた。音夢のお母さんはほっとしたように一緒に笑っていた。しかし音夢が急にお腹を抑え始め、苦しそうにした。
「音夢!音夢!」
私はナースコールで先生を呼んだ。先生が走って病室に来ると私は先生に駆けつけた。
「先生!検査はしたんですよね!」
「しましたがあの時異常は見られませんでした。すぐにもう一度検査をします。」
先生は焦った様子で音夢のベットを動かし、緊急処置室に行った。音夢がいなくなった日に内臓が痛いと言っていたことを思い出した。
「内臓をたくさん検査してください!」
私の声は締まりかけたドアに塞がれた。音夢が緊急処置室で検査している間、私と音夢のお母さんは音夢がいた病室で座って待っていた。私は音夢が無事であることを祈るしかなかった。
音夢が緊急処置室に入ってから3時間が経った。先生が病室から戻ってきてある一言を放った。
「申し訳ありません。」
私は頭が真っ白になり椅子から倒れ、目からは涙が伝った。
「何がですか、?なにが申し訳ないんですか!音夢は、音夢…」
今までにないくらい大きな声で先生に泣きついた。
「原因不明の症状で手の施しようがなく、先程息を引き取られました。本当に申し訳ありません。」
「謝って欲しいわけじゃないです!音夢を返してください!お願いします…。音夢を…」
「音夢さんは緊急処置室に入った時、涼に引き出しを開けてほしいと言っていました。そこにすべてがあるから、と。」
「引き出し、?」
「…お母さんはこちらの部屋に。では失礼します。」
白いアネモネ
音夢。それは私にとって唯一の存在で一番の友達。喧嘩をすることも離れることもない片割れのような人。そんな大切な人が私のそばから一瞬でいなくなった。まるでシャボン玉のように一瞬で。
私は先生に言われるがまま、音夢がいた病室にある引き出しを開けた。しかしそこには何も入っていなかった。そういえばどこの引き出しかは言っていなかった。私は大粒の涙を流しながら音夢が使いそうな引き出しを思い浮かべた。音夢の家、学校の音夢の机、どっちかだ。そう思った私はまず学校に向かった。すごく重い足を精一杯動かした。泣きながら走っている私を見て、笑っている人や冷たい目で見る人がたくさんいた。それでも涙は止まることなく永遠に流れてくる。どんなに走っても前に進んでも止まることのない涙を拭いながら学校に向かって走り続けた。学校に着くと校門が閉まっていて、この時初めて今日が土曜日だということに気づいた。校舎の裏にある壊れたドアから侵入し、靴を脱ぎ捨てて階段を上がった。何度も滑って転びそうになりながら教室に着いて、音夢の机の中を覗いた。そこには見た事のない1冊のノートが入っていた。音夢はノートを使う時は必ず名前を書いてから使うのに、このノートには名前が書かれていなかった。ノートを開くと、そこにはいつもより崩れた字で長文が書かれていた。
「大好きな涼へ。びっくりしたよね。きっと涼は私がごめんって言ってもバカって笑って許してくれるんだろうなぁ。この手紙は私に何かあった時のために涼に読んでもらおうと思って書いてます。だから今、読んでる涼は余裕のある涼じゃないのかな。この手紙を書いている私も、涼が知ってるいつもの元気な音夢じゃないかも。実は半年前に余命宣告されてたの。ずっと一緒にいたのに秘密にしててごめんなさい。病気は肝臓の何かが悪いらしい、笑 病名も初めて聞いたから覚えてないくらい珍しい病気らしくて、治療方法も薬もないみたい。だから私に残された半年を誰よりも充実させてやろうって思って生活してた。もちろん涼と一緒にいれるのがあと半年って思ったら悲しいし辛いけど、悲しんでる時間もないくらい楽しんで、すずとの思い出をいっぱい作りたいなって思ってます。今のところ楽しいことばっかりでやっぱり涼の力はすごいね。この間学校で見つけた石とかも初めて見てびっくりした。あれを見つけた時、なにかすごい力を感じたんだよね。多分私の何かと繋がってるんじゃないかな。だから私に何かあったら石が教えてくれるかもしれない。そんなアニメみたいなことは起きないか!笑 半年が経ったら石を私だと思ってそばにいさせてね。どんな形になっても涼の一番は私だからね。すごく急なことだったと思うし、受け入れるのに時間がかかるかもしれない。涼は心が優しいから余計に大変かもしれないけど、絶対に涼の隣を離れないから安心して生きてね。私の分まで生きなくていいから自分の分を精一杯楽しく生きて。最後に私からお願いがあります。絶対に幸せになってね。ついてきちゃダメだからね。どんな時も涼を見守ってるから、今までの優しくてかわいい涼のままでいてね。今までありがとう。そしてほんとにごめんね。今までもこれからも大好きです。世界一幸せ者の音夢より。」
音夢が書いた最後の文は、少し濡れていた。私は音夢のノートを抱えたまま、誰もいない教室で何も考えずにただただ泣き続けた。私には今までと変わらず隣にいるのは大好きな音夢だ。音夢が書いてくれた手紙と石を宝物に、私は音夢のために生きていきたいと思う。いや、音夢を思って自分のために生きる。私を変えてくれたのは家族でも先生でもない、音夢だ。全ての感謝を音夢に向けてこれからの人生を共に生きたい。音夢に言われたように誰よりも幸せになって、また音夢と一緒に笑えるように一緒に生きていく。これが私と音夢の生き方だ。