勇者ココアはそれなりに生きたい

作者畠山こくご

 物語の主人公・ココアは勇者の力を持って生まれた少女。訪れた地にはびこる魔族を倒し、人々から感謝され、そして次の街へと旅立つーーそんな冒険の日々を繰り返していた。
 ある時、彼女の前に勇者の導き手である妖精・パピヨンが姿を現し、魔帝討伐に向けた冒険目標の達成状況に進展がないことを警告する。
 しか…

 はじめに。この作品のテーマは「それなりに生きるつもりではそれなりに生きられない」「時間は有限」です。「俺はまだ本気出してないだけ」「いつまでもこの時が続くんじゃないか」という幻想を否定し、読者にやんわりと現実を突きつけるようなものとなっています。

 

 私はRPGをプレイしているとき、仲間が揃い、世界の全貌が見えてきて旅の目的もはっきりとしてくる中盤あたりが一番ワクワクします。今まで行った場所に好きにワープできるようになったり、レベルもそこそこ上がって派手な技で敵をサクサクと倒せるようになり、次第に万能感のようなものに満ちてきます。

 ですが、旅のゴール地点が見えてくる終盤になると急に寂しくなってしまいます。なので、ラストダンジョン寸前になって急に、今まで放置していたサブイベントを片っ端からやり出したり(笑)。

 そして、先ほど述べた万能感というのは、リアルの人生でも感じられるものだと思います。

 特に、10代から20代にかけての若いうちは根拠のない万能感に惑わされてしまいがち。ゲームと違ってエンディングはまだまだうんと先ですから、それなりに幸せを感じていれば現状に甘んじてしまいます。

 でも、30過ぎて終わりに少し近づいたあたりから焦り始めます。作者自身の経験です。

 そこで、私は同じような後悔をする若者を生み出さないため、現実逃避のための創作ではなく、現実回帰のための創作をすることを考えました。

 本書のターゲットは主人公ココアと同じ16歳くらいから20代前半。読んだ人が、ココアみたいに自分も現実にちゃんと向き合い、今置かれている立場を客観的に捉え、全力で生きようと前向きに決意できるような、そんな物語を目指して書きました。