華族の跡取りだった菊之丞は、借金の肩に一年、武家に嫁ぐ事に‥しかも、姫としての条件付き。男と知られれば命が危うい、嫌々で嫁いだ先に待ち受けていたのは
コトリ、と置かれた箱を見て、思う。
互いに身分が無かったら、名が無かったら
全てを捨てていれば
『さようなら』
目元涼しく、冷ややかで美しい顔をした男の
視線は手元の紙に落とされ、眼差しの奥はひどく歪んでいた。
「あら、あなたどうなさったの?」
『あぁ、少し煙に当たってな』
もう、あの時から長い時が流れた。
秘めた罪の様な恋、
少し、昔話をしようか。