高橋奏と高木勇吾は同期入社で、勇吾の声に惚れた奏の猛アプローチで付き合い始めた。しかしここのところ仕事が忙しい勇吾に三回連続でデートをキャンセルされている。
 付き合って三年目のその日に、一目でも会いたいからと奏は勇吾の部屋で待つが、日付ギリギリに帰ってきた勇吾は酔っ払っていてそのまま寝つぶれて…

 高橋奏がオフィスのPCでメールをチェックしていると、後ろに人が立つ気配を感じた。


「おい」


 よく聞き慣れた低い声が不機嫌そうに奏を呼んだ。


 声の主は高木勇吾――奏の同僚で彼氏だ。


 奏が返事をしないでいると、ジレた勇吾がデスクに片手をついて耳元でささやく。


「おい、無視すんなよ」


 勇吾の周りを意識して抑えた低めの声が奏の耳をかすめ、背筋がゾクリと震えてしまう。


 相変わらず良い声をしている、と苦々しく思いながらふり返った。


「何か御用ですか?」


「爪の落とせよ」


 勇吾は不機嫌そうな顔をして奏をにらんでいた。