高橋奏がオフィスのPCでメールをチェックしていると、後ろに人が立つ気配を感じた。
「おい」
よく聞き慣れた低い声が不機嫌そうに奏を呼んだ。
声の主は高木勇吾――奏の同僚で彼氏だ。
奏が返事をしないでいると、ジレた勇吾がデスクに片手をついて耳元でささやく。
「おい、無視すんなよ」
勇吾の周りを意識して抑えた低めの声が奏の耳をかすめ、背筋がゾクリと震えてしまう。
相変わらず良い声をしている、と苦々しく思いながらふり返った。
「何か御用ですか?」
「爪の落とせよ」
勇吾は不機嫌そうな顔をして奏をにらんでいた。