『――そして、映画のヒロインに大抜擢されたのは、ウサミミこと宇佐美美月さん! こちら本名でいらっしゃるとか?』
よしキタ! MCからの振りに、テレビの前でこぶしを握る。
何度も耳にしたこの質問。もはや美月ちゃんの持ちネタと言っても過言ではない。
『そうなんです。父がつけてくれたんですけど、“美しい”を二つ並べるそのセンスに脱帽ですよね』
なるほど、今日はショートバージョンの答えだ。朝の情報番組だとこんなもんかもしれない。知らんけど。
美月ちゃんの答えを見届けて、今度はテレビに向かって拍手をする。堂々としてて素晴らしい。スタジオもウケてて一安心。
何目線だ! お前はいったい美月ちゃんの何なんだ! とかいうツッコミは遥か過去に置いてきた。私は心のままに生きていく。
ああ、愛しの美月ちゃん。
かわいくて美しくて、観るたび好きになる。テレビの向こうから、ほんの少し緊張しているのも伝わってきてそれがまた最高にかわいい。
朝からリアルタイムの美月ちゃんを観られる幸せを、ゆっくり噛み締める。
……噛み締めたい、のに。
『ぶっちゃけこの話100回は聞いたっすよ。ミミもだんだん話すの上手くなってて――』
美月ちゃんの隣でゲラゲラ笑うこの男。
美月ちゃんのことをミミと呼び捨てるこの男。
美月ちゃんのことをよく知っていると言いたげな口ぶりのこの男。
アイドル卒業後初映画の美月ちゃんとダブル主演を飾るこの男。
橘虎雄――コイツが憎い!!!!!